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TOEIC満点への道 Vol.33

多読多聴のススメ——インプットとアウトプットの黄金比

「どれだけ読めばいいんですか?」

アカデミック・ロードに着任して数ヶ月が経った頃、ある生徒から質問を受けました。高校2年生の女の子で、英語の成績は学年の真ん中あたり。「英語が好きなのに、なぜか伸びない」というタイプです。

「先生、多読って、どれくらい読んだら効果が出るんですか?」

私は少し考えてから、こう答えました。

「目安は、100万語です」

彼女の顔が一瞬、固まりました。

「……100万、語?」

「そう。でも怖くないよ。児童書1冊で大体1万語だから、100冊読めば達成できる計算」

「100冊…」

「でもね、目標は語数じゃなくて、英語が『透明になる』感覚を掴むこと。100万語は、その目安に過ぎない」

「英語が、透明に?」

「うん。翻訳しないで読める状態。英語のまま意味が入ってくる感覚。あれが出てきたら、多読が機能し始めた証拠」

彼女はまだ半信半疑の顔でしたが、その日から絵本の棚に手を伸ばし始めました。

サウスパークで体感した「多聴」の原体験

振り返ると、私が最初に多読・多聴の効果を体感したのは、アカデミック・ロードに来る何年も前のことでした。

ニュージーランドに行く前の6ヶ月間、『South Park』と『Family Guy』をひたすら見続けた日々のことです。1話あたり22分、同じエピソードを何十回も繰り返し見ました。字幕あり、英語字幕、字幕なし、と段階を踏みながら。

あれは、多聴そのものでした。

当時の私はそんな言葉を知りませんでしたが、やっていたことは「大量の英語音声に繰り返し触れること」に他なりません。そして確かに、半年後に渡航した時、耳が別物になっていました。ネイティブの会話を聞いた時に、「音の塊」として飛び込んでくるものが増えたのです。以前は「聴こえない」と思っていた部分が、「聴こえるが意味に変換できない」レベルに変わっていました。

これは、小さいようで大きな変化でした。

「聴こえない」と「意味に変換できない」は、まったく違うアプローチが必要な問題だからです。前者は「量」、後者は「知識」で解決する。多聴は前者を解決する、最も効率的な方法でした。

アカデミック・ロードで目の当たりにした多読の威力

英語塾での指導を通じて、私は多読・多聴の効果を、今度は指導者として目の当たりにしました。

印象的だったのは、小学6年生の男の子のケースです。彼は英語が「あまり好きではない」と言いながらやってきました。勉強が嫌いなのではなく、「教科書の英語が嫌い」という感じです。

試しに渡したのは、『Magic Adventure』という多読図書でした。

最初はページをパラパラめくるだけでした。でも、漫画形式の本なので、英語が分からなくても絵で笑える。気づけば声を出して笑いながら読んでいました。

3ヶ月後、彼は「次のシリーズを読みたい」と言い始め、数ヶ月後には同じシリーズを全巻読み終えていました。そして1年後、彼の学校の英語のテストの点数が、クラス平均を20点以上上回るようになっていました。

彼は特別な単語帳も、文法問題集も使っていません。ただ、好きな本を読み続けた。それだけでした。

「聴くだけで本当に伸びるのか」という疑問への答え

「多聴って、聴くだけで本当に効果があるんですか?」

これも、よく聞かれる質問です。社会人の生徒さんに多く、「通勤中に英語を流しっぱなしにして、それで伸びるのか」と尋ねられます。

答えは、「条件次第で伸びる」です。

条件は二つあります。一つ目は「理解できるレベルの英語を聴くこと」。

英語学習の世界に「i+1」という考え方があります。現在のレベルを「i」とした時、「i+1」、つまりほんの少し難しい英語が最も習得効率が高いという考え方です(言語学者クラッシェンの「インプット仮説」として知られています)。

「全然わからない英語を流しっぱなしにする」のは、耳が慣れるという効果はありますが、語彙や文法の習得には繋がりにくい。ニュース英語を全く理解できないレベルで流しっぱなしにしても、それはBGMとそう変わらないのです。

二つ目は「継続的に大量に聴くこと」。

週に1時間ではなく、できれば毎日。できれば通勤電車の往復全部。できれば家事をしながらも。

こう言うと「無理です」という反応が返ってくるのですが、私のニュージーランド時代を振り返ると、語学学校の授業、パブナイトの雑談、ホストファミリーの食卓での会話と、英語に触れない時間がほとんどありませんでした。その環境が、たった6ヶ月で英語力を跳ね上げたのです。

日本にいては、自然に英語漬けにはなれません。だから意図的に、人工的に、「英語環境」を作るしかない。多聴は、その最も手軽な方法の一つです。

インプットとアウトプットに「黄金比」は存在するか

記事のタイトルに「インプットとアウトプットの黄金比」と書いておいて恐縮ですが、実はこれ、「人による」というのが正直なところです。

よく「インプット7:アウトプット3」とか「インプット9:アウトプット1」という比率が語られます。確かに、語学習得の研究ではインプットが圧倒的に重要だとされています。

でも、私の経験では、学習目的によって最適な比率は大きく変わります。

TOEICのリーディングスコアを上げたいなら、読む量を増やすこと、つまり多読寄りのインプットが効く。リスニングスコアが停滞しているなら、シャドーイングというアウトプット的な練習が突破口になる。英会話力を上げたいなら、口を動かす時間を増やさないと始まらない。

前回の記事でお伝えした通り、アウトプット(書く力、話す力)は、インプットをいくら増やしても自動的には上がりません。「受信機」と「送信機」は、別々に整備する必要があります。

ただ、一つだけ確かなことがあります。

「インプットが枯渇した状態で、アウトプットは伸びない」という事実です。

英会話の練習をしたくても、語彙がなければ言いたいことが言えない。英作文を書こうとしても、インプットから学んだ表現の引き出しがなければ、自分の言葉だけで書くことになり、結局は中学英語の繰り返しになります。

インプットは「食事」、アウトプットは「運動」と考えるとわかりやすいでしょう。食べずに運動しても、筋肉はつかない。食べてばかりで運動しなければ、エネルギーが外に出ていかない。両方必要です。ただし、スポーツ選手でも一般人でも、食事なしの生活はありえません。インプットは、学習の土台なのです。

「量が質を生む」は本当か:段階に応じた学習法

「量より質」という言葉があります。英語学習の文脈でも、「量をこなせばいいというものではない」と言われることがあります。それは正しい。

でも私は、「量が質を生む段階」と「質が量を加速させる段階」があると思っています。

最初のうちは、量が必要です。多読・多聴の初期段階では、「精度」より「慣れ」が大事。分からない単語があっても止まらず読み進める。聴こえない部分があっても戻らず聴き続ける。この「流し読み・流し聴き」の感覚を体に覚えさせることが、まず必要なのです。

そして、ある程度の量をこなすと、「読み方」の質が上がってきます。流れの中で単語の意味を類推する力がつく。文脈から話者の意図を掴む力がつく。こうなってきたら、今度は質を意識した精読・精聴が効いてきます。

「量が質を生む」は、この最初の段階では確実に正しい。野球で言えば、素振りの正確さを上げる前に、まず1000本の素振りが必要な段階があります。

アカデミック・ロードで生徒を見ていると、「まず量を流して、基礎的な感覚を掴む」ことなく、「精読・精聴で細部を理解しよう」とする生徒がいます。これは、基礎トレーニングをすっ飛ばして筋力トレーニングをするようなもので、効率が悪い。逆に、「量をこなしているのに伸び悩んでいる」生徒は、「流し読み・流し聴き」の段階から抜け出せていないことが多いのです。

どちらの段階にいるかを見極めて、適切な方法を提案すること。それが講師の仕事の一つだと感じています。

忙しい社会人が多読を続けるためのコツ

アカデミック・ロードには、社会人の生徒さんも来ます。「英語を仕事で使えるようにしたい」「TOEICのスコアを上げたい」「老後のために英語を楽しみたい」、動機はさまざまです。

共通して聞かれるのが、「時間がない中でどう続けるか」という問いです。

私のおすすめは、「読む本のレベルを下げること」です。

TOEIC 700点の人が、英語のビジネス書を精読しようとするのは、効率が悪い。知らない単語だらけで、毎行が止まる。1ページ読むのに10分かかる。これでは続きません。

それより、TOEIC 500点レベルの易しい英文を、1ページ1分のペースでどんどん読む方が、同じ時間で得られる英語量が圧倒的に多いのです。

「でも、簡単すぎて力がつかない気がして…」

こう言う人が多いのですが、これは誤解です。易しい英文でも、大量に読めば語彙は増えるし、文のリズム感覚が体に染み込みます。難しい本を1冊精読するより、易しい本を10冊多読する方が、長期的には英語力が伸びることが多い。

「簡単な英語を読むのは恥ずかしい」という心理的ハードルを取り除くことが、多読を続けるための第一歩です。

私自身、ニュージーランドで語学学校の宿題として読んだ最初の英語の本は、絵本でした。28歳の男が、絵本を一生懸命読んでいたわけです。同じクラスの20歳そこそこの学生たちに見られたら、恥ずかしいことこの上ない。でも、あれが私の多読の出発点でした。

【次回予告】

次回は、「地方都市での英語教育——栃木県宇都宮市の現実」をお届けします。

東京でも大阪でもなく、宇都宮という地方都市で英語を教えることの難しさと可能性。都市部との機会格差をどう埋めるか。オンライン学習が変えつつある地方の英語教育の現状についてお話しします。

【今回のポイント】

  • 多読の目安は100万語。ただし目標は語数ではなく「英語が透明になる感覚」を掴むこと

  • 多聴の効果は「条件次第」。理解できるレベルの英語を大量に継続して聴くことが重要

  • インプットとアウトプットの「黄金比」は人や目的によって異なるが、インプットは学習の土台

  • 「量が質を生む段階」と「質が量を加速させる段階」を意識して学習方法を変えること

  • 社会人の多読は「レベルを下げること」が継続のカギ

  • 「簡単な英語を読む恥ずかしさ」を捨てたところから、本物の多読が始まる

【プロフィール】

  • 亀井勇樹(42歳)

  • 栃木県宇都宮市「アカデミック・ロード」英語塾講師

  • 保有資格:TOEIC L&R 990点、英検1級、通訳案内士(英語)