TOEIC満点への道 Vol.30
通訳案内士合格(2015年2月)- 国家資格の重み
「2ヶ月待ち」という名の拷問
2014年12月7日。日本女子大学での口述試験を終えた私は、帰りの電車の中で深呼吸をしていました。
自然災害のスピーチで「旅行客を不安にさせるのでは?」という鋭い質問を切り返せた手応え。面接官の表情が「ふっ」と和らいだあの瞬間。試験全体を振り返れば、「まあ、悪くはなかったかもしれない」という感覚が残っていました。
英検1級の二次試験とは全然違います。あの時は「絶対落ちた」と確信しながら帰ったのに、実際は82%で合格していました。今回は逆に、それなりの手応えがある。
「…ということは、油断は禁物だ」
人間というのは厄介なもので、手応えがある時ほど「実は落ちていたらどうしよう」という不安も増殖します。英検の時と逆方向で、同じ量のメンタルダメージを受けるという二重苦です。
そして問題は、結果が出るまでの期間でした。
口述試験の合格発表は、翌年2月。2ヶ月後です。
英検の二次試験は2週間で「地獄」と感じましたが、あれは序の口でした。2ヶ月間、結果を知らないまま日常生活を送り続けなければならない。英会話スクールで生徒に「継続が大事ですよ」と言いながら、頭の片隅では「あの面接官の表情は、本当に良かったのか?」とループする日々。
「試験の結果が2ヶ月出ないって、精神力を鍛えさせる気か」と、通訳案内士試験に向かって一人でツッコんでいました。
日常に戻りながら、頭の片隅にある「あの試験」
12月が過ぎ、年が明けて2015年の1月になりました。
英語スクールの仕事は変わらず続いています。企業出張TOEIC研修もある。英検1級の勉強も再開していました。でも、ふとした瞬間に思い出すのです。「あ、そういえば通訳案内士の結果、まだだ」と。
オンラインゲームで言えば、ランダムなタイミングで画面の隅に「未読通知」のアイコンが光る感覚。無視しようとしても、視界の端でチカチカしている。
2月になった最初の週。「そろそろ結果が来る頃だ」と思い始めました。当時私はスマートフォンを持っていなかったので、帰宅後にパソコンで通訳案内士の公式サイトを確認するのが日課になっていました。
毎日、ページを開いては「まだ発表なし」という画面を眺めて閉じる。まるでお湯が沸くのを見つめている鍋のようで、見ていると遅い気がしてくる。「見なければもっと早く届くのでは」という根拠のない迷信まで生まれてきました。
2015年2月。A4の封筒が届いた日
結果は、郵送で届きました。
帰宅すると、郵便受けに封筒が入っていました。封筒を手に取った瞬間、二つのことに気づきました。
一つ目は、サイズです。A4サイズほどの大きな封筒でした。二つ目は、厚みです。明らかに、書類が複数枚入っているとわかる重さと膨らみがある。
「…あ、合格だ」
不思議なもので、開封する前から確信がありました。不合格なら、1枚の薄い通知を入れた小さな封筒で来るはずです。この大きさと厚みは、合格通知と、その後の登録手続きに関する複数の書類が同封されているということを意味している。
玄関に立ったまま、封筒を開けました。
折り畳まれた書類を広げると、まず目に入ったのは太いゴシック体の文字でした。
「合 格」
予想していたとはいえ、実際にその文字を目にすると、頭の中が一瞬真っ白になりました。
次に目が動いたのは、差出人欄です。「観光庁長官試験事務代行機関 独立行政法人 国際観光振興機構」という文字が並んでいます。各科目の欄を見ると、「外国語:免除、日本地理:合格、日本歴史:合格、一般常識:合格」とあります。
完全合格です。
「観光庁が、私の合格を認めている」
この事実が、なんとも言えない実感を運んでくれました。英検の合格証書には「公益財団法人日本英語検定協会」と書いてありますし、TOEICのスコアレポートには「ETS(米国非営利法人)」とあります。どちらも権威ある発行元ですが、国の機関ではありません。
でも今手に持っているこの通知は、国家試験機関の名前で発行されているのです。大学を中退した32歳の元映画館アルバイトが、国家資格を手に入れた瞬間でした。
5,000円で手に入る「ラミネートされた国家資格証」
合格通知を受け取った後、次のステップとして「登録」の手続きが必要でした。
通訳案内士試験に合格しただけでは、まだ「通訳案内士」を名乗れません。都道府県に登録を申請し、登録が完了して初めて、正式に「全国通訳案内士(英語)」として活動できるようになるのです。
私は書類を揃えて栃木県庁に申請手続きに出向きました。担当窓口の方に書類を提出し、手数料を支払い、記入事項を確認して終了。手続き自体はあっという間でした。試験の苦労と比べると、拍子抜けするほどあっさりしています。
数週間後に届いたのが「全国通訳案内士証」でした。
カードサイズのラミネート加工された証明書に、自分の顔写真と名前が印字されています。見た目はシンプルというか、正直に言えば「図書館の貸出カードより少しだけ立派」くらいの質感です。
でも、この薄いプラスチックカードが、国家試験に認定された資格の証明書なのです。手数料は5,000円程度でした。
「国家資格って、案外シンプルな見た目なんだな」と思いながらも、財布の中に大事にしまいました。以来、この証明書は私の財布の中に常に入っています。たまに生徒に見せると、「え、これが国家資格の証明書なんですか!?」と驚かれます。「そうですよ」と答えながら、少し誇らしい気持ちになる。それが、国家資格というものかもしれません。
「資格を持っている人間」と「使える人間」の違い
通訳案内士に合格してから、私は改めて考えるようになりました。
資格を取ることと、実力を持つことは、似ているようで全く違う。
通訳案内士の筆記試験では、「正倉院の収蔵品の特徴」や「日本の地震のメカニズム」といった問題を正解することができました。でも実際に外国人観光客を日本橋や浅草に連れて行って、2時間英語で観光案内できるかと問われたら、当時の私には自信がありませんでした。
資格は「その分野の基礎知識と英語力がありますよ」という証明書であって、「すべてができます」という保証書ではない。英検1級に合格しても、英語が「完璧」ではなかったのと同じです。
でもそれでいい、と私は思っています。
資格は「ここまで来た」という地図上の現在地であって、「もうゴール」ではない。地図の現在地を確認することで、次にどこへ向かうかが見えてくる。
英検1級の勉強を続けること。TOEICのスコアをさらに伸ばすこと。そして、せっかく取った通訳案内士の資格を、実際の英語教育の場でどう活かすか。
2015年2月。国家資格という重みを手に入れた私の前に、次の山が見え始めていました。
そして、ある考えが頭の中に浮かびつつありました。英語スクールの「一講師」という立場のまま続けるのか、それとも——。その答えを出すまでには、もう少し時間が必要でしたが、確実に何かが変わり始めていました。
【次回予告】
次回は、「3つの資格が変えた人生 – 35歳での転機」をお届けします。
英検準1級・通訳案内士・英検1級と資格を積み上げた私が、ついに下した決断とは。英会話スクールからの転職、そして地元栃木・宇都宮での英語塾「アカデミック・ロード」へ。遠回りだらけの人生が、ここで一つの形になっていきます。
【今回のポイント】
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口述試験から合格発表まで2ヶ月。手応えがある時の待機は、不安も倍増する
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A4サイズの分厚い封筒を見た瞬間、開封前から「合格だ」と確信した
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「外国語:免除、日本地理・日本歴史・一般常識:合格」の完全合格
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登録手続きは県庁の窓口であっさり完了。試験の苦労とのギャップに拍子抜け
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全国通訳案内士証は5,000円で取得できる薄いラミネートカード。でもその重みは厚い
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資格は「現在地の証明」であり「ゴールの証明」ではない。取得後にどう使うかが本質
【プロフィール】
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亀井勇樹(42歳)
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栃木県宇都宮市「アカデミック・ロード」英語塾講師
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保有資格:TOEIC L&R 990点、英検1級、通訳案内士(英語)

