TOEIC満点への道 Vol.28
通訳案内士への挑戦 – 「国家資格」という魔法の言葉
英検1級への道を一時中断した理由
2014年の春。私は英会話スクールの講師として3年目を迎えていました。
TOEICの企業出張研修も軌道に乗り始め、「英語講師」としての生活がようやく安定してきた頃でした。英検1級の勉強も続けてはいましたが、なかなか一次試験を突破できない日々。英語力はたしかに伸びている実感があるのに、何か物足りない感覚を抱えていました。
そんなある日、生徒の一人との会話がきっかけで、ある資格の存在を知ることになります。
「先生、通訳案内士って知ってますか?外国人観光客を英語で案内する国家資格らしいんですけど」
「…国家資格?」
その言葉が、私の耳に引っかかりました。
「国家資格」というプレミア感の罠
正直に言います。私が通訳案内士に興味を持った理由は、決して崇高なものではありませんでした。
「英語で日本の魅力を世界に伝えたい」とか「観光大国日本に貢献したい」とか、そういう立派なビジョンは一切ありません。ただ単に、「国家資格」という言葉の響きに惹かれたのです。
英検1級も素晴らしい資格ですが、主催は民間の公益財団法人です。TOEICはアメリカのETSが作った試験です。でも通訳案内士は違う。観光庁長官が認定する、正真正銘の国家資格です。
「観光庁長官認定」というフレーズが頭に浮かんだ瞬間、なぜか「それ、ほしい」という欲求が生まれました。オンラインゲームで言えば、最高難度のレアアイテムのようなもの。「持っているやつ、ほとんどいないんじゃないか?」という希少性への反応です。
我ながら動機が不純すぎますが、これが正直なところでした。
要項を見て発見した「抜け道」
さっそく通訳案内士の試験要項を調べてみました。当時はスマートフォンを持っておらず(私がスマホを手に入れるのは2018年のことです)、パソコンで検索しながらの情報収集です。
試験科目を確認すると、こう書いてありました。
「英語、日本歴史、日本地理、一般常識の4科目+口述試験」
英語の問題を少し見てみると、英語力だけでなく日本に関する深い知識がないと答えられないような問題ばかりです。「伊勢神宮の特徴を英語で説明せよ」とか「富士山信仰の歴史について述べよ」とか。これは一筋縄ではいきません。
「国家資格は無理か…」と諦めかけたその瞬間、要項の端に小さな記述を見つけました。
「TOEIC L&R 900点以上の取得者は英語科目が免除」
…待って。これ、英語を受けなくていいってこと?
つまり、TOEICで900点さえ取れば、日本史と地理と一般常識だけを勉強すれば良いのです。他の受験者が4科目こなしている間、私は実質3科目勝負に持ち込める。
「こっちの方が楽かも!」と思った私は、すぐに申し込みを決めました。
しかし「900点」という壁が立ちはだかった
喜んで申し込もうとしたところで、一つの大きな問題が発覚しました。
当時の私のTOEICスコアは755点。英語免除の基準である900点まで、あと145点も足りません。英語免除のために、まずTOEIC対策をしなければならない。なんとも回り道な話ですが、やるしかありません。
情報収集のために向かったのは、当時最大の情報交差点だった「2ちゃんねる」です。SNSが今ほど普及していなかった時代、まとめサイトや掲示板のスレッドには、受験経験者の生の声が集まっていました。
スレッドを読み進めながら、私はちょっとした違和感を覚えました。投稿者のほぼ全員が、さもTOEIC900点以上であるかのような口ぶりなのです。
「900点程度では本番の英語は難しい」
「950点あっても油断できない」
世の中の全員が900点超えなのではないかと錯覚するような空気感でした。
これはインターネット特有の「上位層バイアス」というやつです。実際には900点以上の取得者は受験者全体の数パーセントしかいないのに、ネットで積極的に発言する人は上位層に偏っている。そういう場所で情報収集をすると、自分だけが取り残されているような気分になります。
気持ち悪さを感じながらも、そこで得た有益な情報をまとめると、「公式問題集を繰り返し解くこと」「金のフレーズで語彙強化」「文法特急で文法整理」という3点でした。私はすぐにAmazonで一式を注文し、本格的なTOEIC対策を開始しました。
880点から925点へ – タイムリミットとの戦い
2014年3月のTOEIC。結果は880点でした。900点まであと20点届きません。
通訳案内士の出願締め切りまでに900点を出せなければ、今年の受験自体が不可能になります。タイムリミットは、直後に迫った5月の試験でした。
焦りを感じながら、リーディングを中心とした追い込み学習を開始しました。ダブルパッセージ対策の問題集を購入し、Part 7の長文問題を集中的に演習。宇都宮大学の試験会場に向かった5月25日、私はかつてないほど緊張していました。通訳案内士の今年の受験を懸けた、負けられない一戦だったからです。
結果は925点。リスニング495点、リーディング430点。
英語免除の基準、クリアです。
「よし、これで英語の心配はない」と安堵したのも束の間、すぐに厳しい現実が待っていました。残る3科目、日本史・日本地理・一般常識の勉強を始めなければなりません。
そしてここに、私が想像していなかった別の壁がありました。英語の問題とはまったく性質の異なる、とてつもない壁が。
【次回予告】
次回は、「日本史・地理・一般常識 – 英語以外の壁」をお届けします。
高校時代に文系科目が好きだったはずなのに、なぜか日本史が頭に入らない。そこで救世主として登場したのが、まさかの大泉洋さん出演番組『水曜どうでしょう』でした。DVD全巻保有マニアが、まさかの形で試験勉強に役立つことになります。
【今回のポイント】
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「国家資格」という言葉の響きに惹かれた。動機は不純でも構わない
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TOEIC 900点以上で英語科目免除というルールを発見し、即申し込みを決定
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ネットの情報には「上位層バイアス」があるので鵜呑みにしない
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755点 → 880点(3月) → 925点(5月)と短期間でスコアアップし免除基準をクリア
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英語免除が取れても、日本史・地理・一般常識という別の壁が待っていた
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試験要項から「抜け道を探す」発想は、学習戦略の重要なスキルである
【プロフィール】
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亀井勇樹(42歳)
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栃木県宇都宮市「アカデミック・ロード」英語塾講師
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保有資格:TOEIC L&R 990点、英検1級、通訳案内士(英語)

