TOEIC満点への道 Vol.8
29歳無職、TOEIC 755点からの再起:帰国後、図書館で掴んだ「英語」という名の推進力
2012年10月28日、成田空港。
6ヶ月間のニュージーランド生活を終え、日本の土を踏んだ瞬間、私の中で何かが音を立てて崩れました。
「あぁ、俺、29歳無職で戻ってきたんだ」
空港の到着ロビーで、家族連れや出張帰りのビジネスマンたちを見ながら、私は自分の立場を痛いほど思い知らされました。パスポートは貴重なスタンプで埋まったが、履歴書に書ける資格は相変わらず「英検準2級」だけ。
帰りの電車の中、スーツ姿のサラリーマンたちを見ては「この人たちは仕事があるんだな」と羨み、大学生らしき若者を見ては「まだ可能性があっていいな」と嫉妬心すら覚えました。
ハローワークで突きつけられた現実
帰国翌日、私は重い足取りでハローワークへ向かいました。
求職者届を書く手が震えたのを今でも覚えています。
職歴欄:映画館アルバイト(7年)
最終学歴:大学中退
保有資格:普通自動車免許、英検準2級
窓口の職員は優しく対応してくれましたが、その視線の奥に「大丈夫かな、この人」という心配が見え隠れしているように感じ、いたたまれなくなりました。
「失業給付は3ヶ月後から3ヶ月分出ますので、それまでに就職活動を頑張ってくださいね」
3ヶ月後。つまり、2013年2月から給付開始。その間は完全に収入ゼロ。実家に身を寄せる29歳男性。この現実が、私の胸を締め付けました。
図書館が第二の家になった日々
無職の一日は、長いようで、あっという間に過ぎます。 矛盾しているようですが、密度が薄いのです。朝起きて、ボーッとしていたら夕方。何もしていないのに疲れる。この感覚、経験した人にしか分からないかもしれません。
実家にいるのも気まずい。母親の「今日はどこか行くの?」という一言が、鋭い刃物のように心に刺さる。だから私は、毎日朝8時から夜8時まで、近所の市立図書館に通うことにしました。
当初は好奇の目で見られているような気がしました。
「あの人、毎日いるよね」「無職かな?」「いい歳して何してるんだろう」
しかし、しばらくして気づきました。私と同じような境遇の人が、意外と多くいることに。 やたら資格系の参考書を積み上げている30代の男性、公務員試験の問題集を解いている20代の女性、簿記の電卓を叩き続ける中年男性…。
みんな、必死に這い上がろうとしていました。その姿に、少し勇気をもらいました。
ニュージーランドで買った『Grammar in Use』を命綱に
帰国して何より怖かったのは、せっかく身につけた英語力が錆びついてしまうことでした。
あの55 NZD(ニュージーランドドル)**で買った『English Grammar in Use』を、まるでお守りのように毎日開きました。 すでにボロボロになったページが、逆に「これだけやってきたんだ」という自信を与えてくれました。
さらにAmazonで『Vocabulary in Use』シリーズも購入。無職の身には痛い出費でしたが、「これは投資だ」と自分に言い聞かせました。
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朝5時起床
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5時半〜7時: Grammar in Use(3単元)
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7時〜8時: 朝食・準備
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8時〜12時: 図書館で語彙学習
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12時〜13時: 昼食(おにぎり2個)
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13時〜17時: リスニング練習、読解練習
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17時〜20時: 読解練習
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20時〜21時: 帰宅・夕食
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21時〜23時: その日の復習
この生活を、雨の日も風の日も続けました。
初めてのTOEIC – 恐怖と期待が入り混じった2時間
11月のある日、意を決してTOEICに申し込みました。受験料5,725円は、当時の私にとって大金でした。
「もし500点とかだったら…」「いや、ワーホリ行ったんだから700点くらいは…」「でも、模擬試験では650点だったし…」
不安と期待が、頭の中で渦巻いていました。
試験当日。会場は宇都宮大学工学部キャンパス。受験者でごった返していました。 周りを見渡すと、大学生らしき若者から、スーツ姿の社会人、私のような「何かを変えたい」オーラを放つ人までさまざま。
リスニングセクションが始まりました。
「あれ?意外と聞き取れる」
サウスパークやファミリーガイで鍛えた耳は、確実に成長していました。でも、リーディングセクションで現実を突きつけられました。
時間が、圧倒的に足りない。
残り20問を塗り絵(適当にマーク)して終了。情けなさと悔しさが残り、帰り道は重い足取りとなりました。
755点 – 微妙すぎる数字が教えてくれたこと
1ヶ月後、結果が届きました。
Total Score: 755
Listening: 430 / Reading: 325
正直、微妙でした。
800点を期待していた自分には物足りない。でも、英検準2級しか持っていなかった自分が755点を取れたことは、小さな前進でもありました。
この時、私は気づいたんです。
「リスニングとリーディングの差が100点以上ある。これが、今の自分の課題だ」
ニュージーランドでの生活は、確実にリスニング力を向上させていました。でも、文法や語彙、読解速度はまだまだ。この現実を受け入れ、次のステップを考え始めました。
英検準1級合格 – 履歴書に書ける武器を手に入れた
TOEICと並行して受験した英検準1級。こちらは、ギリギリでしたが一次試験合格。
2013年2月の二次試験(面接)では、ニュージーランドでのパブナイトの経験が活きました。「間違えてもいいから話す」という度胸が、面接官との会話を成立させてくれたのです。
合格通知を手にした時、29歳にして初めて「履歴書に堂々と書ける資格」を手に入れた喜びで、思わず安堵しました。
でも同時に、これがスタートラインに立っただけだということも、痛いほど分かっていました。
振り返って思うこと
あの頃の自分に言いたい。「755点で落ち込むな。それは通過点だ」と。
実際、この755点から990点満点までの道のりは、さらに5年かかりました。でも、この「帰国直後の焦りと不安」があったからこそ、必死に勉強を続けることができたのだと思います。
無職という肩書きは重かった。でも、その重さが推進力になりました。
図書館で過ごした12時間は、決して無駄ではなかった。あの静かな空間で、黙々と問題を解き続けた日々が、今の私の土台を作ってくれたのです。
次回は「英会話スクール就職への道 – 英検準1級合格(2012年)」をお届けします。755点と英検準1級を武器に、どうやって英語講師への道を切り開いたのか。そして、実際に教える立場になって初めて気づいた、自分の英語力の本当の課題とは何だったのか。
29歳無職から、英語のプロへの第一歩を踏み出した、その瞬間をお話しします。