TOEIC満点への道 Vol.6
パブナイトの衝撃 – お酒が解放したスピーキング力
「今日パブナイト行くでしょ?」
2012年6月、ニュージーランドのオークランドにある語学学校。クラスメートのドイツ人、エリックが当然のように私を誘ってきました。
「いや、僕はそういうの苦手だから…」
逃げようとする私の肩をがっちり掴み、彼はニヤリと笑いました。
「ユウキ、英語を話せるようになりたいんだろ?だったら、来い」
この半ば強引な誘いが、私のスピーキング力を劇的に向上させることになるとは、その時はまだ知りませんでした。
日本でも飲み会が苦手だった私
正直に告白します。私は典型的な「陰キャ」でした。
日本にいた頃、映画館でのアルバイト時代も、忘年会や歓送迎会といった飲み会は可能な限り避けていました。理由は簡単。何を話していいか分からないし、場の空気を読むのも苦手。そもそも大勢でワイワイすること自体が苦痛でした。
そんな私が、外国人だらけのバーで、英語で会話するなんて…。想像しただけで胃が痛くなりました。
「やっぱり今日は体調が…」
最後の抵抗を試みましたが、エリックは聞く耳を持ちません。結局、半ば引きずられるようにして、オークランド中心部のバーへ向かうことになりました。
海外のバーは、想像以上にカッコよかった
バーの前に着いた瞬間、私の中の何かが変わりました。
「なんか…洒落ててカッコいいぞ…」
薄暗い照明、大音量で流れる洋楽、カウンターでグラスを磨くバーテンダー。まさに海外ドラマや映画で見た、あの雰囲気そのものでした。『フルハウス』や『アルフ』を見て育った私にとって、それは憧れの世界が現実になった瞬間でした。
入り口で年齢確認のためパスポートを提示(海外では飲酒に対して厳格です)し、中に入ると、すでに語学学校の生徒たちが20人ほど集まっていました。韓国、ブラジル、サウジアラビア、スイス、フランス…まさに国際色豊かな空間。
そして何より驚いたのが値段。ビール一杯5ニュージーランドドル(約350円)、ピザも一枚同じくらい。日本の居酒屋より断然安い!
アルコールが解放した「間違えてもいい」という気持ち
最初の一杯を飲み干した頃、不思議な変化が起きました。
「あれ?なんか英語が口から出てくる…」
アルコール3%程度の軽い酎ハイで泥酔できるほど酒に弱い私ですが、その「ほろ酔い」状態が、まさに奇跡を起こしたのです。
- 間違えたらどうしよう → 間違えてもいいや
- 文法が変かも → とりあえず伝わればOK
- 発音が悪いかな → 大声で叫べば聞こえるでしょ
普段なら10秒考えて結局言えなかったことが、3秒で口から飛び出すようになりました。
大音量が生んだ、予想外の学習効果
パブナイトには、語学学校では得られない「最高の学習環境」がありました。
1. 大声で話す習慣がついた
DJが流す大音量の音楽のせいで、普通の声では全く聞こえません。必然的に、腹から声を出す必要がありました。
「WHAT DO YOU STUDY IN UNIVERSITY?」
「SORRY? WHAT?」
「I SAID, WHAT DO YOU STUDY?」
最初は恥ずかしかったこの「叫び合い」が、実は日本人が最も苦手とする「はっきりと大きな声で英語を話す」という訓練になっていたのです。
2. 聞き返されることへの恐怖が消えた
騒音の中では、ネイティブ同士でも聞き返すのが当たり前です。
「Could you say that again?」
「What was that?」
「One more time, please!」
これらのフレーズが飛び交う中で、「聞き返される=自分の英語が下手」という思い込みから解放されました。
3. ジェスチャーとセットで話す癖がついた
言葉だけでは伝わらないので、自然と身振り手振りが大きくなりました。数字は指で示し、方向は腕で指し、感情は顔全体で表現する。これが後に、普通の会話でも「伝わりやすい英語」を話す基礎となりました。
実際にどれくらい効果があったのか
毎週水曜日、欠かさずパブナイトに参加した結果:
- 1ヶ月後:初対面の人と30分は会話が続くようになった
- 2ヶ月後:ジョークを言って笑いを取れるようになった
- 3ヶ月後:酔っていない状態でも、自信を持って話せるようになった
語学学校の先生にも変化を褒められました。
「ユウキ、最近すごく積極的に発言するようになったね。パブナイト効果?」
まさにその通りでした。
なぜアルコールが英語学習に効果的なのか?―その3つの心理的効果
後に英語講師となった今、当時の経験を分析すると、以下の心理的効果があったと考えられます。
1. 扁桃体の活動抑制
アルコールは脳の扁桃体(恐怖や不安を司る部分)の活動を抑制します。これにより「間違えたら恥ずかしい」という恐怖心が薄れ、積極的に話せるようになります。
2. 自己検閲の緩和
普段は「この文法で合ってるかな」「この単語の使い方は…」と考えすぎて話せない人も、適度な飲酒により自己検閲が緩み、スムーズに言葉が出るようになります。
3. 社会的距離の短縮
アルコールは人との心理的距離を縮める効果があります。「外国人」「ネイティブスピーカー」という壁が低くなり、対等な人間として接することができるようになります。
お酒が飲めなくても大丈夫。スピーキング力を伸ばす5つのコツ
もちろん、お酒を飲めない人、飲みたくない人もいるでしょう。でも、パブナイトから学んだエッセンスは、お酒なしでも実践できます。
- カラオケボックスで英語の歌を歌う(大声を出す練習)
- スポーツバーで試合を見ながら会話(興奮状態での発話練習)
- 料理教室やダンスレッスン(動きながら話す練習)
- オンライン英会話を立ったまま受ける(身体を動かしながら話す)
- AI相手に会話(恥ずかしさを克服する練習)
最後に – 完璧じゃなくていい
あの水曜日の夜、エリックに無理やり連れて行かれたパブナイト。今でも彼には感謝しています。
「間違えてもいい」「伝わればいい」「楽しければいい」
この3つの「いい」を知ったことが、私の英語人生を大きく変えました。
現在、英語塾で生徒たちに教える時、必ずこの話をします。そして、可能な限り「間違えても大丈夫な環境」を作ることを心がけています。
完璧な英語なんて、ネイティブだって話していません。大切なのは、伝えたいという気持ちと、伝える勇気。
もしあなたがスピーキングに悩んでいるなら、まずは「間違えてもいい場所」を見つけてください。それが、あなたの英語を解放する第一歩になるはずです。
【今回のポイント】
- 心理的障壁を下げることが、スピーキング上達の鍵
- 聞き返される環境に慣れることで、恐怖心が消える
- 大声で話す練習は、日本人の弱点克服に効果的
- 完璧を求めず、「伝わればOK」の精神が大切
- アルコールに頼らなくても、同様の効果を得る方法はある