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TOEIC満点への道 Vol.26


二次試験対策 – 2分間スピーチの恐怖

2015年6月、自宅のPCで緊張の中、英検の公式サイトで合格発表を確認しました。

「英検1級一次試験 合格」

5回目の挑戦で、ようやく一次試験の壁を突破。4回の不合格を経て、ついにこの文字を見ることができた。思わずガッツポーズをしてしまいました。

しかし、喜びも束の間。続きには、こう書かれていました。

「二次試験日程:7月5日(日)」

あと3週間。たった3週間で、あの「2分間スピーチ」に挑まなければならない。私の顔から、さっきまでの笑顔が消えました。

二次試験の恐怖:「2分間、話し続けろ」

英検1級の二次試験は、他の級とは全く異なるフォーマットです。

まず、5つのトピックが書かれたカードを渡されます。そこから1つを選び、1分間で準備。そして2分間、そのトピックについてスピーチをする。スピーチ後には、面接官との質疑応答が待っています。

準備時間1分。スピーチ2分。質疑応答4分程度。

準1級の面接では、4コマ漫画を見てストーリーを説明したり、質問に答えたりするだけでした。あの時は、ニュージーランドのパブナイトで鍛えた「間違えてもいいから話す」という度胸で乗り切れました。

しかし、1級は違います。

  • 「日本は死刑制度を廃止すべきか」

  • 「原子力発電は今後も推進すべきか」

  • 「グローバリゼーションの功罪について」

こんな重いトピックについて、即興で2分間。しかも論理的に、説得力を持って。パブで「週末何してた?」「このビール美味しいね」と話していた私に、できるわけがない。そう思いました。

最初の1週間:何から始めればいいのか分からない

一次試験の英作文対策で、「型」を覚えることの重要性は学んでいました。導入→本論(理由3つ)→結論。この構成は、スピーチでも同じはず。

しかし、決定的に違うことがあります。英作文は「書く」。スピーチは「話す」。

書く時は、考えながら文章を組み立てられます。消すこともできるし、書き直すこともできる。でもスピーチは、一度口から出た言葉は消せません。しかも、沈黙は致命的です。

「えーと…」「あの…」「うーん…」

こんな言葉で時間を稼ぐことは許されない。2分間、止まらずに話し続けなければならない。最初の1週間、私は過去問のトピックを眺めながら、ただ途方に暮れていました。

対策①:原稿を書く – まず「型」を体に染み込ませる

このままではまずい。そう思った私は、まず「原稿を書く」ことから始めました。

過去に出題されたトピックを調べ、片っ端から原稿を書いていく。200語程度、2分で話せる分量を意識して。

  • 「インターネットのセキュリティ問題について」

  • 「日本の少子高齢化対策について」

  • 「環境保護と経済発展の両立について」

1日1本、原稿を書き続けました。

最初は3時間かかった原稿が、1週間後には1時間で書けるようになりました。英作文対策で身につけた「型」が、ここでも活きたのです。

  • 導入:トピックの背景を述べ、自分の立場を明確にする

  • 本論:理由を3つ挙げ、それぞれ具体例や説明を加える

  • 結論:自分の意見を再度述べて締めくくる

この「型」を10本、20本と書き続けることで、頭ではなく体が構成を覚えていきました。

対策②:一人スピーチ練習 – 恥を捨てて声を出す

原稿を書けるようになっても、それを「話す」ことはまた別の問題でした。

私が実践したのは、とにかく一人でスピーチする練習です。部屋のドアを閉め、スマートフォンのタイマーを2分にセット。そして、書いた原稿を見ずに話し始める。

最初は悲惨でした。「えー、インターネットの…セキュリティは…えーと…重要な…問題で…」。1分も持たずに沈黙。頭が真っ白になり、次の言葉が出てこない。

「こんなの、無理だ…」

何度も心が折れそうになりました。でも、試験日は刻一刻と近づいてくる。朝起きてすぐ2分間スピーチ。通勤中に頭の中でスピーチ。昼休みにトイレの個室でスピーチ。帰宅後にまたスピーチ。1日5回以上、とにかく口を動かし続けました。

「沈黙を避ける技術」- 手を動かせ

練習を続ける中で、ある発見がありました。「手を動かすと、言葉が出てくる」。

最初は偶然でした。スピーチ中に詰まりかけた時、無意識に手を広げながら「On the other hand…」と言ったら、続きがスルスルと出てきたのです。

そこで、意識的にジェスチャーを取り入れるようにしました。

  • 「First of all…」と言いながら、指を1本立てる。

  • 「Second…」で2本目。

  • 「Finally…」で3本目。

  • 「On the one hand…」で左手を上げ、

  • 「On the other hand…」で右手を上げる。

ちょっと大袈裟なくらいに手を動かす。すると不思議なことに、言葉が詰まりにくくなったのです。

後で調べてわかったのですが、これは「ジェスチャー効果」と呼ばれる現象だそうです。身体を動かすことで、言語を司る脳の領域が活性化される。アメリカの大学の研究でも、ジェスチャーを使いながら話すと、より流暢に、より説得力を持って話せることが証明されているとのこと。パブナイトで身振り手振りを使って話していた経験が、ここでも活きました。

3週間の成果:なんとか2分間話せるようになった

試験直前の週。私は、ようやく2分間止まらずに話せるようになっていました。

完璧ではありません。文法ミスも多いし、言い直しもある。でも、「沈黙」だけは避けられるようになった。

何かを言い続ける。詰まりそうになったら、手を動かす。それでも出てこなければ、「Let me think about this from another perspective…」と言いながら時間を稼ぐ。

本番で頭が真っ白になっても、なんとか乗り切れる。そう信じて、試験会場に向かいました。

本番当日:想像以上の圧力

2015年7月5日。試験会場は都内の大学でした。控室で待っている間、周りを見渡すと、スーツ姿の社会人や、参考書を読み込む学生たち。みんな緊張した面持ちで、静まり返っていました。

名前を呼ばれ、面接室へ。ドアを開けた瞬間、私は少し圧倒されました。試験官が3人いたのです。

正面にネイティブスピーカーの男性。その隣に日本人の女性。そして少し離れた位置に、タイムキーパー。準1級までの時は試験官1人だった。この人数の多さに、心臓がドクドクと高鳴りました。

トピックカードを受け取る瞬間

軽い自己紹介の後、いよいよトピックカードが渡されました。5つのトピックが並んでいます。1分間で選び、構成を考えなければならない。

目が泳ぎながら、トピックを読んでいきます。1つ目…難しそう。2つ目…これも厳しい。3つ目…

「インターネットセキュリティの課題について」

これだ。練習で何度も原稿を書いたトピックに近い。迷わず3つ目を選び、残り40秒ほどで構成を組み立てました。

  • 導入:インターネットの普及と新たな脅威

  • 理由1:個人情報の流出リスク

  • 理由2:サイバー犯罪の増加

  • 理由3:対策技術と犯罪技術のイタチごっこ

  • 結論:継続的な対策の必要性

頭の中で、おぼろげながらアウトラインが浮かびました。

2分間の地獄

「Please begin your speech.」

ネイティブの試験官が、静かに告げました。

「Today, I would like to talk about internet security issues…」

手を軽く動かしながら、話し始める。導入部分は、なんとかスムーズに話せました。練習の成果が出ている。

「First of all…」指を1本立てる。個人情報の流出について話す。

「Second…」2本目。サイバー犯罪について。

ここまでは順調でした。しかし、3つ目の理由を話し始めた時、異変が起きました。ネイティブの試験官の表情が、険しくなったのです。

「え?何か間違えた?」

一瞬、頭が真っ白になりかけました。でも、ここで止まったら終わりだ。手を大きく動かしながら、とにかく話し続ける。

「Therefore, in conclusion…」

結論に入ろうとした、その時。

「Thank you. Time is up.」

タイムキーパーの声が響きました。

終わった後の絶望

面接室を出た瞬間、私は壁にもたれかかりました。

「…終わった」

スピーチは最後まで言い切れなかった。ネイティブの表情は険しかった。質疑応答も、なんとか答えたものの、自信を持って話せた場面はほとんどなかった。「これは、落ちたな…」。

4回の一次試験不合格を経て、ようやく辿り着いた二次試験。それが、こんな形で終わるなんて。帰りの電車の中で、私は窓の外を眺めながら、ぼんやりと考えていました。

「また一次試験からやり直しか…」

一次試験の合格は1年間有効。つまり、次の二次試験に落ちたら、また一次試験から。あの地獄のような語彙問題と、時間との戦いをもう一度。正直、心が折れそうでした。

振り返って思うこと

今、この記事を書きながら、あの日のことを思い出しています。試験官の険しい表情。タイムアップの宣告。面接室を出た後の絶望感。

でも、一つだけ確かなことがありました。

「沈黙だけは、しなかった」

スピーチは最後まで言い切れなかったけれど、2分間、止まらずに話し続けた。手を動かし、なんとか言葉を紡ぎ出し続けた。3週間の練習は、無駄ではなかった。そう思いたかった。

【次回予告】

次回は、「英検1級合格(2015年7月)- 不合格の山を越えて」をお届けします。

手応えゼロの二次試験。結果発表の日、私が目にした数字とは?そして、4回の一次試験不合格から学んだこと。英検1級という長い戦いの結末をお話しします。

【今回のポイント】

  • 二次試験は「2分間スピーチ+質疑応答」という独特の形式

  • 準備時間はわずか1分。即興力が問われる

  • 原稿を書く練習で「型」を体に染み込ませる

  • 一人スピーチ練習で「話す」ことに慣れる

  • ジェスチャーを使うと言葉が出やすくなる(沈黙を避ける技術)

  • 本番は試験官3人の圧がある

【プロフィール】

  • 亀井勇樹(42歳)

  • 栃木県宇都宮市「アカデミック・ロード」英語塾講師

  • 保有資格:TOEIC L&R 990点、英検1級、通訳案内士(英語)