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TOEIC満点への道 Vol.25

英作文対策 – 論理的思考力の訓練

2014年の秋、私は机の上に白紙の原稿用紙を置いて、途方に暮れていました。

『パス単』を3周し、語彙問題は「全滅」から「なんとか戦える」レベルまで上がってきた。長文読解も、時間はかかるものの理解できるようになってきた。英検1級の一次試験に向けて、少しずつ前進している実感がありました。

しかし、一つだけ、どうしても手をつけられない分野がありました。英作文です。

過去問の英作文トピックを見つめながら、私は2時間、何も書けないまま固まっていたのです。

「安楽死を合法化すべきか」という問い

その日のトピックは、こうでした。

Should euthanasia be legalized?

(安楽死を合法化すべきか)

200〜240語で、自分の意見を述べる。賛成か反対かを明確にし、その理由を3つ挙げて論じる。これが英検1級の英作文に求められる形式です。

TOEICの200問を2時間で解けるようになっていた私が、たった200語の英作文に2時間かけても、1文字も書けない。

なぜか?

理由は単純でした。私は、安楽死について何の意見も持っていなかったのです。

「安楽死って、なんか難しい問題だよね」

「賛成とも反対とも言いにくいよね」

32年間生きてきて、私の「安楽死に対する見解」は、この程度でした。

日本語でも書けないことは、英語でも書けない

ここで、残酷な事実に直面しました。

「日本語でも意見が言えないのに、英語で書けるわけがない」

試しに、日本語で「安楽死の是非」について作文してみました。

「安楽死については、賛成と反対の両方の意見がある。賛成派は〇〇と言い、反対派は△△と主張する。どちらにも一理あると思う。」

…これ、何も言っていないのと同じです。「一理ある」で逃げている。自分の立場を明確にしていない。

英検1級が求めているのは、「どちらにも一理ある」という曖昧な態度ではありませんでした。

  • あなたは賛成か、反対か

  • なぜそう思うのか、具体的な理由は何か

  • 反論にはどう答えるか

これらを、200語で論理的に述べる。それが英作文の本質でした。

オンラインゲーム廃人に「社会問題への見識」があるわけがない

ここで、自分の経歴を振り返って苦笑しました。

大学中退。映画館アルバイト7年間。その間、ニュースを見る習慣もなければ、新聞を読むこともなかった。政治や経済について考えることは皆無。オンラインゲームの攻略情報なら詳しかったけれど、「日本の少子高齢化対策」について意見を述べろと言われても、何も出てこない。

英検1級の英作文トピックを見渡すと、こんなものが並んでいました。

  • 「グローバリゼーションは発展途上国に恩恵をもたらしているか」

  • 「遺伝子組み換え食品の規制を強化すべきか」

  • 「日本は移民をもっと受け入れるべきか」

  • 「死刑制度は廃止すべきか」

どれも、ニュース番組で特集を組むような重いテーマばかりです。

私は愕然としました。英検1級は、「英語力」だけでなく「教養」を問う試験だったのです。TOEICのように「会議室の予約メール」を読むのとは、根本的に違う。

語彙を覚え、文法を理解しても、「意見がない」という根本的な問題は解決しない。これは、英語以前の問題でした。

まず「日本語で」意見を持つ訓練

そこで私は、発想を転換しました。「英作文の前に、日本語で意見を書く練習をしよう」。具体的には、こんな方法を実践しました。

ステップ1:ニュースを見る習慣をつける

恥ずかしながら、これまでニュースをまともに見たことがありませんでした。そこで、毎日15分だけNHKニュースを見ることにしました。最初は「へー、そうなんだ」で終わっていましたが、徐々に「なぜこうなったんだろう」と考えるようになりました。

ステップ2:トピックについて「賛成/反対」を決める

ニュースで取り上げられたテーマについて、強制的に「賛成」か「反対」かを決める。最初は「どちらとも言えない」と逃げたくなりますが、それを禁止。どちらかに立場を決める。

  • 「原発再稼働」→ 反対

  • 「カジノ解禁」→ 賛成

  • 「消費税増税」→ 反対

根拠がなくてもいい。まず「立場を決める」ことが大事でした。

ステップ3:理由を3つ考える

立場を決めたら、その理由を3つ考える。これが難しい。

  • 「原発再稼働に反対」→ 理由は?

    1. 事故が起きたら取り返しがつかない

    2. 再生可能エネルギーの方が将来性がある

    3. えーと…(思いつかない)

最初は3つ挙げるのに30分かかりました。でも、これを毎日続けていると、徐々に「理由を考える回路」が脳内にできてくるのです。

「型」を覚えることの重要性

日本語で意見を持てるようになってきた頃、次のステップに進みました。それが、「型を覚える」ことです。英検1級の英作文には、「勝ちパターン」があります。

基本構成

  • 導入(Introduction) : 約30語

    • トピックの背景を簡潔に述べる

    • 自分の立場を明確にする

  • 本論(Body) : 約150語

    • 理由1(約50語)

    • 理由2(約50語)

    • 理由3(約50語)

  • 結論(Conclusion) : 約30語

    • 自分の意見を再度述べる

    • 結論を締めくくる

この「型」を知っているだけで、英作文のハードルは大きく下がりました。

模範解答を「丸暗記」する

次に私がやったのは、模範解答の丸暗記です。

「暗記なんて意味がない」「自分の言葉で書かなきゃ」と思う人もいるでしょう。でも、私の結論は逆でした。「型がない人間が、いきなりオリジナルを書けるわけがない」。

かつてオンラインゲームでも、最初は上級者の動きを完コピしていました。自分なりのプレイスタイルを確立したのは、基本を身につけた後です。英作文も同じ。まずは「お手本」を完璧に再現できるようになってから、自分なりのアレンジを加えればいい。

私は、英検1級対策本の模範解答を10本、丸暗記しました。導入の書き出しパターン、理由を述べる時の接続詞、反論への対処法、結論の締め方。これらが体に染み込むまで繰り返しました。

「使えるフレーズ」のストックを増やす

丸暗記と並行して、「使いまわせるフレーズ」のストックを作りました。

  • 導入で使えるフレーズ

    • “It is often argued that…” (〜とよく言われる)

    • “There is a growing debate about…” (〜について議論が高まっている)

    • “I strongly believe that…” (私は〜と強く信じる)

  • 理由を述べる時のフレーズ

    • “First and foremost,…” (まず第一に)

    • “Another reason is that…” (もう一つの理由は)

    • “Furthermore,…” (さらに)

  • 結論で使えるフレーズ

    • “In conclusion,…” (結論として)

    • “For these reasons,…” (これらの理由から)

    • “Taking everything into account,…” (全てを考慮すると)

これらを単語帳のようにカード化し、毎日目を通しました。すると、いざ書く時に「どう書き始めればいいか分からない」という問題がなくなったのです。

週1回の「実戦練習」

インプットを続けながら、週1回は必ず「本番形式」で英作文を書きました。ルールは厳格に。

  • 制限時間25分

  • 辞書は使わない

  • 書き直しは禁止

最初は悲惨でした。25分で150語しか書けず、論理も破綻していました。でも、8週間続けた頃、ようやく200語を超える英作文が時間内に書けるようになりました。

そして何より、「書く」という行為を通じて、自分の「考える力」が鍛えられていることに気づきました。

書くことは、考えること

英作文対策を始めて3ヶ月。私の中で大きな変化が起きていました。

ニュースを見る時、自然と「自分はどう思うか」を考えるようになった。友人との会話でも、「なぜそう思うのか」を意識するようになった。

英作文の練習は、単に「英語で書く技術」を磨くだけではなかったのです。思考を整理し、論理的に構成し、自分の意見を持つ。これは、32年間の人生で一度も鍛えたことのない「筋肉」でした。英検1級の英作文対策は、私に「考える習慣」を与えてくれたのです。

1回目の不合格:英作文は「想定外」の高得点

2014年秋、1回目の英検1級に挑戦しました。結果は不合格。しかし、スコアを見て驚きました。

  • 語彙問題:70%(まあまあ)

  • 読解問題:55%(時間切れ)

  • 英作文:80%(想定外の高得点)

英作文が足を引っ張ると思っていたのに、実際は一番の得点源になっていたのです。あの「日本語で意見を持つ練習」「型の暗記」「フレーズのストック」が、しっかり効果を発揮していました。

振り返って思うこと

英検1級の英作文対策は、私の人生観を変えてくれました。

「日本語でも書けないことは、英語でも書けない」

この当たり前の事実に気づいたことで、私は「意見を持つ」ということの大切さを学びました。

オンラインゲームに12,000時間を費やした廃人は、32歳にしてようやく「社会問題について考える」という習慣を身につけたのです。遅すぎると言われるかもしれません。でも、始めるのに遅すぎることはない。

今、英語講師として生徒に英作文を教える時、私は必ずこう言います。「まず、日本語で意見を持て。英語はその後だ」と。

【次回予告】

次回は、「二次試験対策 – 2分間スピーチの恐怖」をお届けします。

英作文はなんとか形になった。しかし、二次試験には「即興スピーチ」という地獄が待っていました。準備時間1分、スピーチ2分。沈黙したら即アウト。この恐怖にどう立ち向かったのか、赤裸々にお話しします。

【今回のポイント】

  • 「日本語でも書けないことは、英語でも書けない」が英作文の真実

  • 英検1級は「英語力」だけでなく「教養」を問う試験

  • まずは日本語で「意見を持つ」訓練が必要

  • 導入→本論(理由3つ)→結論の「型」を覚えることが重要

  • 模範解答の丸暗記は、オリジナルを書くための土台になる

  • 「使えるフレーズ」のストックが、書き出しの迷いをなくす

【プロフィール】

  • 亀井勇樹(42歳)

  • 栃木県宇都宮市「アカデミック・ロード」英語塾講師

  • 保有資格:TOEIC L&R 990点、英検1級、通訳案内士(英語)