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TOEIC満点への道 Vol.24

 

語彙力強化作戦 – 1日50単語×300日の挑戦

2014年の夏、私は『パス単』の1ページ目を開きました。

最初の単語は「abdicate(退位する)」。見たことも聞いたこともない。次は「abolish(廃止する)」。これは知っている。その次は「abrupt(突然の)」。なんとなく見覚えがある。

「よし、このペースなら…」

そう思ったのも束の間。10ページ目に差し掛かる頃には、「知っている単語」の方が珍しくなっていました。

2,400語。この途方もない数字との戦いが、ここから始まったのです。

忘却との戦い:エビングハウスの絶望

最初の1週間、私は気合を入れて1日100単語ずつ進めました。「2,400語 ÷ 100語 = 24日。1ヶ月で終わるじゃないか!」と計算して。

しかし、この計算には致命的な欠陥がありました。

1週間後、最初のページに戻ってみると…

「abdicate…なんだっけ、これ」

100%覚えたはずの単語が、きれいさっぱり消えていたのです。

「エビングハウスの忘却曲線」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。ドイツの心理学者が発見した、人間の記憶に関する法則です。人は、覚えたことの約70%を24時間以内に忘れるそうです。

私は身をもってこの法則を体験していました。1日100語を覚えても、翌日には70語が消えている。まるで穴の開いたバケツに水を注いでいるような気分でした。

かつてオンラインゲームで12,000時間を費やした男です。レベル上げには慣れています。でも、ゲームでは経験値が減ることはありません。しかし、単語学習は違いました。覚えても覚えても、忘れる。これは、ゲームよりもはるかに過酷な「レベル上げ」でした。

『パス単』攻略法:金のフレーズ方式の応用

1ヶ月ほど迷走した後、私はTOEIC対策で効果のあった方法を思い出しました。『金のフレーズ』で実践した「高速周回法」です。

「覚える」のではなく、「何度も出会う」ことを目標にする。

具体的にはこうです。まず、『パス単』を最初から最後まで一気に目を通します。知っている単語にはチェックを入れ、もう見ない。チェックが入っていない単語だけを繰り返し見る。

  • 1周目:約3時間(2,400語すべてに目を通す)

  • 2周目:約2時間(チェックなしの約2,000語)

  • 3周目:約1.5時間(チェックなしの約1,500語)

周回するたびに、チェックが増えていく。見るべき単語が減っていく。すると、周回スピードが上がる。周回スピードが上がると、同じ単語に出会う頻度が増える。出会う頻度が増えると、記憶に定着する。

この好循環を作ることが、『パス単』攻略の鍵でした。

1日50単語×300日:現実的な目標設定

「1日100語」という目標は、私には無理でした。仕事をしながらでは、復習の時間が取れないからです。そこで、目標を「1日50単語の新規学習 + 既習範囲の復習」に変更しました。

  • 朝30分:新規50単語に目を通す

  • 昼休み15分:朝の50単語を復習

  • 夜30分:その日の50単語 + 前日の50単語を復習

これなら、1日約1時間15分。働きながらでも継続できる量です。

2,400語 ÷ 50語 = 48日で1周。これを6周すれば、約300日。ちょうど10ヶ月です。「10ヶ月か…長いな」と思いましたが、1年半かかると言われる英検1級対策です。語彙だけに10ヶ月かけても、おつりが来る計算です。私は腹を括りました。

洋書との出会い:語源学習への転換点

『パス単』を3周した頃、私はある壁にぶつかりました。「似たような単語が、全部同じに見える」のです。

  • preclude(排除する)

  • preclusion(排除)

  • precursor(先駆者)

  • predispose(〜しやすくさせる)

  • predominant(支配的な)

「pre-」で始まる単語が多すぎて、頭の中でごちゃごちゃになる。一つ一つ暗記しようとしても、翌日には混同している。

「これ、一つ一つ覚えていくのは限界があるな…」

そう思った時、ニュージーランド時代に使っていた洋書『Vocabulary in Use Advanced』を思い出しました。この本には、単語の「語源」が詳しく解説されていたのです。

さらに、Amazonで見つけた『1100 Words You Need to Know』というアメリカの単語帳も購入。こちらも語源を重視した構成でした。これらの洋書を読んで、私は目から鱗が落ちる思いでした。

語源学習の威力:「pre-」の魔法

「pre-」は「前に、あらかじめ」という意味の接頭辞。これを知っているだけで、先ほどの単語たちが整理されます。

  • preclude = pre(前に)+ clude(閉じる)→ 前もって閉じる → 排除する

  • precursor = pre(前に)+ cursor(走る人)→ 前を走る人 → 先駆者

  • predispose = pre(前に)+ dispose(配置する)→ 前もって配置する → 〜しやすくさせる

  • predominant = pre(前に)+ dominant(支配的な)→ 前に出て支配する → 支配的な

さらに、「clude」は「閉じる」という意味の語根だと分かれば、「include(中に閉じ込める→含む)」「exclude(外に閉じ出す→除外する)」「conclude(完全に閉じる→結論づける)」も芋づる式に理解できます。

一つの語源を覚えるだけで、5個も10個も単語が覚えられる。これは革命的でした。

医療系単語での実感:知らなくても「読める」

語源学習の効果を最も実感したのは、英検1級の長文で医療系のトピックが出た時でした。

「cardiovascular」という単語。初めて見た時、私は意味を知りませんでした。でも、語源を学んでいた私には、推測ができました。

  • cardio = 心臓(cardiac「心臓の」から類推)

  • vascular = 血管の(vessel「血管」から類推)

「心臓血管の」という意味だろう。実際、その通りでした。

他にも、こんな単語が「読める」ようになりました。

  • neurology = neuro(神経)+ logy(学問)→ 神経学

  • dermatitis = derma(皮膚)+ itis(炎症)→ 皮膚炎

  • hypertension = hyper(過剰な)+ tension(緊張)→ 高血圧

医療系の単語は一見すると呪文のように複雑ですが、語源を知っていればパーツに分解して意味を推測できる。これは、英検1級の長文読解で大きな武器になりました。

「分からない単語」との付き合い方

語源学習を始めてから、私の単語に対する姿勢が変わりました。

以前は、知らない単語に出会うと「覚えなきゃ」とストレスを感じていましたが、今は「どんな語源だろう?」と好奇心が湧くようになりました。

『1100 Words You Need to Know』は、毎週のように新しい単語を紹介してくれます。英語で書かれた解説を読むことで、語源だけでなく、単語のニュアンスや使い方も自然と身についていきました。

『Vocabulary in Use Advanced』も同様です。英英辞典のように英語で英語を理解する。この「英語脳」のトレーニングが、後の英作文対策にも活きることになります。

300日後の変化:語彙問題の正答率

『パス単』を6周し、洋書で語源学習を続けた結果、英検1級の語彙問題(25問)の正答率は、こう変化しました。

  • 学習開始時:3問正解(12%)

  • 3ヶ月後:10問正解(40%)

  • 6ヶ月後:16問正解(64%)

  • 10ヶ月後:20問正解(80%)

25問中20問。合格ラインと言われる7割を超えました。あの「宇宙語」だらけだった語彙問題が、「知っている単語」の方が多くなっている。この変化は、自分でも信じられないほどでした。

振り返って思うこと

2,400語という数字は、最初は途方もなく見えました。

でも、1日50語ずつ、300日続ければ、必ず終わる。これは、かつてオンラインゲームで学んだ「レベル上げの真理」と同じでした。

ただし、単語学習がゲームと違うのは、「忘れる」という要素があること。だからこそ、「覚える」のではなく「何度も出会う」という発想の転換が必要でした。

そして、語源学習との出会い。これがなければ、私は「暗記地獄」から抜け出せなかったかもしれません。一つ一つの単語を丸暗記するのではなく、「パーツ」として理解する。この方法論は、今でも生徒たちに伝えている大切な教えです。

【次回予告】

次回は、「英作文対策 – 論理的思考力の訓練」をお届けします。

語彙問題は克服した。でも、英検1級にはもう一つの壁がありました。「日本語でも書けないことは、英語でも書けない」。英作文対策で私が直面した、「英語力」以前の問題についてお話しします。

【今回のポイント】

  • エビングハウスの忘却曲線:覚えたことの70%は24時間以内に忘れる

  • 「覚える」のではなく「何度も出会う」ことを目標にする

  • 1日50単語×300日で『パス単』を6周した

  • 語源学習で「似た単語」の混同を解消できた

  • 医療系など専門用語も、語源を知れば「読める」ようになる

  • 洋書(『1100 Words You Need to Know』『Vocabulary in Use Advanced』)が語源学習に有効だった

【プロフィール】

  • 亀井勇樹(42歳)

  • 栃木県宇都宮市「アカデミック・ロード」英語塾講師

  • 保有資格:TOEIC L&R 990点、英検1級、通訳案内士(英語)