TOEIC満点への道 Vol.22
なぜ英検1級なのか – TOEIC満点だけでは足りない理由
2014年5月、TOEIC 925点を達成した私は、ちょっとした「天狗」になっていました。
リスニング495点満点。リーディング430点。合計925点。企業出張TOEIC講座を担当し始めて約1年、ようやく「TOEIC講師」として胸を張れる点数を取れた。そう思っていました。
しかし、その天狗の鼻は、意外なところから折られることになります。
準1級を目指す高校生との出会い
英会話スクールの仕事は、企業研修だけではありませんでした。社会人向けのレッスンはもちろん、高校生や大学生の指導を担当することも増えてきた頃です。
その中に、英検準1級を目指している高校2年生の女の子がいました。Aさんは県内でも有数の進学校に通い、将来は国際関係の仕事に就きたいという明確な目標を持っていました。英検2級は合格済みで、次は準1級、ゆくゆくは1級を目指したいとのこと。
「先生は英検何級持ってるんですか?」
初回のレッスンで、彼女は無邪気にそう聞いてきました。
「準1級だよ」
「え、私と同じ目標ですね!」
…彼女に悪気はなかったと思います。でも、この言葉は私の胸にグサリと刺さりました。そう、私は英検準1級。彼女が「これから取ろうとしている」資格と同じなのです。これから指導していく生徒と、同じ級。なんだか、非常に居心地が悪い思いをしました。
「準1級って、中途半端ですよね」
追い打ちをかけるように、別の場面でもこんなことがありました。
社会人向けのレッスンで、新しく入会された40代の男性。海外出張が増えてきたので英語力を上げたい、とのことでした。
「先生の英語の資格は?」
「TOEIC 925点と、英検準1級ですね」
「へえ、TOEICはすごいですね。英検は…準1級ですか」
その「準1級ですか」の言い方。「ふーん、で?」という空気が漂っていました。
「準1級って、なんか中途半端ですよね。1級じゃないと、あんまりインパクトないというか…」
グサッ。二度目の胸への一撃。
確かに、英検は日本での知名度が抜群です。小学生でも知っている資格。「英検持ってる?」は、日本人同士の英語力を測る共通言語のようなもの。だからこそ、「準」がつくと途端に印象が弱くなる。「1級」と「準1級」の間には、たった一文字の違いしかありません。でも、その一文字が持つ重みは、想像以上に大きかったのです。
TOEICだけでは足りない理由
ここで、冷静に自分の「英語力」を分析してみました。
TOEIC 925点。これは確かに、履歴書に書けば「おっ」と思ってもらえる点数です。900点以上は受験者の上位数%程度。数字としては立派です。
でも、TOEICが測定しているのは何か?
リスニングとリーディング。それだけです。つまり、「聞く力」と「読む力」。英語の4技能のうち、半分しか測っていないのです。「スピーキングは?」「ライティングは?」この質問に、TOEICのスコアだけでは答えられません。
企業研修でも、こんなことを言われたことがありました。
「先生、TOEIC 925点ってすごいですね。でも、実際に英語で会議できるんですか?英語でメール書けるんですか?」
正直、自信を持って「できます」とは言えませんでした。確かに、ニュージーランドで6ヶ月間英語漬けの生活をしていたので、日常会話程度ならなんとかなります。でも、「ビジネスで使える」レベルかと言われると、怪しい。
TOEICは、あくまで「受け身の英語力」を測る試験。インプット能力は証明できても、アウトプット能力は証明できない。この事実に、私は改めて向き合うことになりました。
英検1級という「別次元」の存在
では、英検1級とは何なのか。
準1級に合格した2012年以降、何度か1級の問題を見たことはありましたが、その度にそっと問題集を閉じていました。
「これ、同じ『英検』なの…?」
準1級と1級の間には、まるでグランドキャニオンのような深い溝がありました。
まず、語彙。準1級の目安語彙数が約7,500語なのに対し、1級は約15,000語。倍です。しかも、その15,000語の中には、日常会話ではまず使わないような学術的な単語がゴロゴロ出てくる。
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exacerbate(悪化させる)
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juxtapose(並置する)
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sycophant(おべっか使い)
見たことも聞いたこともない単語ばかりです。
さらに、英検1級には「英作文」があります。社会問題について、自分の意見を論理的に英語で書く。準1級にもライティングはありますが、1級は求められる論述のレベルが違います。
そして、二次試験のスピーキング。与えられたトピックについて、即興で2分間話し続けなければなりません。
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「日本は移民をもっと受け入れるべきか」
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「死刑制度は廃止すべきか」
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「グローバリゼーションの功罪について」
こんな重いトピックを、英語で、2分間。しかも準備時間は1分だけ。日本語でも難しい内容です。
4技能を証明することの意味
それでも、私は英検1級を目指すことを決めました。理由は明確でした。
英語講師として、「この人は本当に英語ができる」と思ってもらうためには、4技能全てを証明する必要がある。リスニングとリーディングだけでは半人前。スピーキングとライティングもできて、初めて「英語ができる人」と認められる。
特に、英検準1級を目指す高校生を指導する立場として、自分が1級を持っていないのは説得力に欠けます。
「先生、1級の問題ってどんな感じですか?」と聞かれて、「えーと、1級は受けたことないから分からないな…」なんて会話はしたくありません。
それに、英検1級には、TOEICにはない「アカデミックな英語力」の証明という側面がありました。TOEICは「ビジネス英語」に特化した試験ですが、英検1級は「教養としての英語力」を問う試験です。
環境問題、政治、経済、科学、文化。幅広いトピックについて深く考え、自分の意見を持ち、それを英語で表現する力。私は、その「教養としての英語力」に憧れていました。
正直に言えば、大学を中退した私には、学歴コンプレックスがありました。英検1級は、そのコンプレックスを埋める一つの手段でもありました。学歴では勝てなくても、資格で追いつける。そんな思いがあったのかもしれません。
始まりの一歩:『パス単』との出会い
2014年の夏、私は本屋で一冊の単語帳を手に取りました。『英検1級 でる順パス単』です。約2,400語収録。これを全部覚えれば、1級の語彙問題に対応できるらしい。
パラパラとページをめくってみると、8割以上が未知の単語でした。
「これ、本当に覚えられるのか…?」
不安を抱えながらも、レジに向かいました。かつてオンラインゲームに12,000時間を費やした男です。単語2,400語くらい、覚えられないわけがない。そう自分に言い聞かせながら。
でも、このとき私はまだ知りませんでした。英検1級の壁が、想像をはるかに超える高さだということを。そして、2回の不合格を経験することになるということを。
振り返って思うこと
TOEIC 900点を超えた頃、私は一つの分岐点に立っていました。このままTOEICだけを極めていくのか。それとも、別の山にも挑戦するのか。
結果的に、英検1級という「別の山」に挑戦したことは、私の英語力を大きく引き上げてくれました。TOEICでは絶対に出会わない単語、TOEICでは求められない論述力、TOEICでは測れないスピーキング力。全てが、講師としての私を成長させてくれました。
もしあの時、「TOEICだけでいいや」と思っていたら、今の私はいなかったかもしれません。
【次回予告】
次回は、「英検1級の壁 – 準1級とは次元が違う難しさ」をお届けします。
語彙レベル15,000語の世界。初めて1級の過去問を解いた時の絶望。そして、準1級との決定的な違いについて、赤裸々にお話しします。
【今回のポイント】
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生徒と同じ級だと指導の説得力が弱まる
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「準1級」は知名度が高いがゆえに「中途半端」と見られがち
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TOEICはリスニングとリーディングのみ。4技能の半分しか測れない
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英検1級は「教養としての英語力」を証明できる
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学歴コンプレックスを資格で埋めることも一つの動機だった
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1級の単語帳を開いた瞬間、8割が未知の世界
【プロフィール】
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亀井勇樹(42歳)
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栃木県宇都宮市「アカデミック・ロード」英語塾講師
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保有資格:TOEIC L&R 990点、英検1級、通訳案内士(英語)

