TOEIC満点への道 Vol.18
TOEIC 970点突破(2016年5月)- 何が変わったか
2016年5月29日、日曜日。
私はいつもの会場で、いつものように試験を受けていました。しかし、この日のTOEICは、いつもとは違いました。新形式TOEICの導入初日だったのです。
Part 3・4へのグラフ問題の追加、Part 5の文法問題削減(40問→30問)、そして何より、Part 7に「トリプルパッセージ」という未知の形式が登場しました。
「トリプルパッセージって何だよ…」
初めて公式サンプル問題を見た時、私は途方に暮れました。ダブルパッセージですら時間が足りなかったのに、3つの文書を読んで答える問題が追加されるなんて正気の沙汰ではない、と。
しかし、結果としてこの新形式こそが、私を970点へと押し上げてくれる最大の要因となったのです。
新形式の衝撃:トリプルパッセージとの対峙
試験当日、Part 7の後半に差し掛かった時、ついにその時が来ました。3つの文書が並ぶ、トリプルパッセージです。
最初は「これ、本当に時間内に終わるのか?」と圧倒されました。しかし、問題を解き始めて気づいたことがあります。
1つ1つのパッセージの負荷が、思ったより軽いのです。
ダブルパッセージでは、2つの文書それぞれがかなりの情報量を持っていました。しかしトリプルパッセージでは、情報が3つに分散されている分、1つあたりの文書量が少ない。「これは…いける」と、勝ち筋が見えた瞬間でした。
追い風:文法問題40問→30問の恩恵
新形式のもう一つの大きな変更点は、Part 5の文法問題が40問から30問に減ったことでした。
これは、私にとって完全な追い風でした。
正直に告白しますが、文法問題はずっと私の弱点でした。以前お話しした通り、日本語の文法用語が理解できず、「なんとなく」で選んでしまうことが多かったのです。
40問あった時代は、文法問題だけで20分以上かかることもありました。それが30問に減ったことで、Part 7に回せる貴重な時間を確保できたのです。
もちろん、「問題数が減っただけ」で満足してはいけません。この追い風を最大限に活かすため、私は文法問題の「瞬間判断力」を徹底的に鍛えることにしました。
『出る1000問』:文法問題の完成形へ
前回の記事でもご紹介した『TOEIC L&Rテスト 文法問題 でる1000問』。この分厚い問題集を、私は2016年に入ってから本格的にやり込みました。
最初は正答率6割程度。「1000問もあるのに、こんなに間違えるのか…」と落ち込みましたが、2周、3周と繰り返すうちに、ある感覚が芽生えてきました。
「この問題、前にも見たな」
TOEICの文法問題には明確なパターンがあります。分詞の選択、関係代名詞の省略、前置詞と接続詞の違い…。1000問を解いていくと、同じパターンが何度も登場することに気づきます。
そしてある日突然、問題の傾向がようやく掴めた感覚がありました。
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「これは分詞の問題だから、主語との関係を見ればいい」
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「これは前置詞か接続詞かの選択だから、後ろに主語+動詞があるか確認すればいい」
頭で理解するのではなく、体が勝手に反応する。この感覚を得るまでに、私は約2000問の文法問題を解きました。
Part 7革命:本文を「全部読む」勇気
もう一つ、970点突破に大きく貢献した変化があります。それは、Part 7の解き方を根本から変えたことです。
以前の私は、「先に設問を読んで、本文から該当箇所を探す」という、いわゆる「スキャニング」の手法を取っていました。
しかし、この方法には限界がありました。設問を読んでから本文を読むと、「答えを探すこと」に意識が向きすぎて、文章全体の流れが頭に入らないのです。
そこで思い切って、本文を全部読んでから設問に取り掛かる方式に変えました。
最初は「時間が足りなくなるんじゃないか?」と不安でしたが、実際にやってみると意外な効果がありました。一文一文を丁寧に読みつつも、全体の目的や要点を把握することに意識を向けられるようになったのです。
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「このメールは、会議の日程変更を伝えるものだな」
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「この記事は、新製品の発表を報じているんだな」
全体像が頭に入っていると、設問を見た時に「あ、これはさっき読んだあの部分だ」とすぐに分かります。結果的に設問を解くスピードが上がり、時間に余裕が生まれました。
1200点を目指す:990点では足りない理由
970点を目指す過程で、私はある重要な気づきを得ました。
990点を目指しているだけでは、990点は取れない。
公式問題集のレベルでは、満点を取る人にとっては「簡単すぎる」のです。本番で1問もミスをしないためには、本番より難しい問題で鍛えておく必要がありました。
そこで手を出したのが、990点超えを目指すための超難関問題集です。
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『[新装版]TOEIC(R)テスト BEYOND 990 超上級問題+プロの極意』
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『TOEIC(R) テスト BEYOND 990 超上級リーディング 7つのコアスキル』
最初にこれらの本を開いた時、正直「こんな難しすぎるのは不要だ」と思いました。読解問題の英文は本番より長く、語彙は明らかにハイレベル。「こんなの、TOEICに出ないだろ」と何度も思いました。
しかし、やり込んでいくうちにその意図が分かってきました。
本番で「難しい」と感じなくなるのです。
1200点レベル(もちろん架空のスコアですが)の問題を解いていると、本番の問題が「普通」に感じられるようになります。余裕を持って解けるから、ケアレスミスも減る。これが、「1200点を目指すつもりで990点を取る」という戦略でした。
970点達成:喜びと悔しさの入り混じる瞬間
2016年6月下旬、スコアシートが届きました。封を開ける手が少し震えていました。
Total: 970点(L: 495 / R: 475)
リスニングは満点。リーディングは475点。
この数字を見た瞬間、「やった!」と「がっかり…」が同時に押し寄せてきました。
「やった!」は、自己ベスト更新への喜び。2015年5月の910点から、1年で60点アップ。リーディングも、停滞していた420点台から475点へと大幅にジャンプしました。
しかし同時に、「まだ足りないのかよ…」という思いも込み上げてきました。
あと20点。たった20点で満点なのに、届かない。リスニングは満点を取れている。リーディングも475点まで来た。なのに、あと20点が遠い。
この時、私は悟りました。970点から990点への20点は、それまでの200点分くらいの努力が必要になるのだと。
学習時間:970点達成時のルーティン
参考までに、2016年5月時点での私の学習時間をお伝えします。
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平日:約2時間(通勤時間含む)
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通勤電車(往復90分):リスニング+『金のフレーズ』
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帰宅後(30分):『出る1000問』または公式問題集
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休日:約3時間
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午前中:公式問題集1セット通し(2時間)
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午後:復習と弱点分析(1時間)
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2014年に本格的な対策を始めてから約2年。累計学習時間は、おそらく1500時間を超えていたと思います。
振り返り:970点で見えた景色
970点という数字は、私にとって大きな転換点でした。
リスニングは満点で安定。リーディングも475点まで伸びた。企業研修の講師として、ようやく「TOEIC指導のプロ」を名乗れるレベルに達したと感じました。
しかし同時に、「満点」という目標がより鮮明に見えてきたのも事実です。あと20点。されど20点。この「最後の壁」を越えるために、私はさらに1年半の戦いに挑むことになります。
【次回予告】
次回は、「TOEIC 980点(2017年5月)- 満点への最終調整」をお届けします。
970点から980点へ。そして、2017年7月の955点という「まさかの後退」。満点直前で経験した挫折と、そこから学んだ「ケアレスミスの撲滅方法」についてお話しします。
【今回のポイント】
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新形式のトリプルパッセージは、1つあたりの負荷が軽く「勝ち筋」が見えた
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文法問題40問→30問への削減は、文法が苦手な人にとって追い風
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『出る1000問』で文法の「瞬間判断力」を体得
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Part 7は「本文を全部読んでから設問へ」で全体把握力アップ
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990点を取るには「1200点を目指すつもり」の難問演習が必要
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970点達成は喜びと悔しさが入り混じる複雑な感情
【プロフィール】
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亀井勇樹(42歳)
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栃木県宇都宮市「アカデミック・ロード」英語塾講師
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保有資格:TOEIC L&R 990点、英検1級、通訳案内士(英語)

