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TOEIC満点への道 Vol.17

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使用教材徹底解説② – 単語帳は本当に必要か?

「先生、単語帳って本当に必要ですか?」

企業研修で、ある生徒からこんな質問を受けました。彼の机の上には、真っ白な『金のフレーズ』が置かれていました。全く使われていない状態です。

「買ったんですけど、全然覚えられなくて…。それよりPart 7の長文を読んでいた方が単語が覚えられる気がするんです」

この質問は、TOEIC学習者なら誰もが一度は抱く疑問だと思います。私自身、長い間この問題に悩まされてきました。今回は、この永遠のテーマについて、私の経験に基づいた結論をお話しします。

 

大学生時代の思い出 – ファイナルファンタジー11という「単語帳」

話は少し遡ります。

大学1年生の時、私は『ファイナルファンタジー11』というオンラインゲームに没頭していました。日本語版をプレイしていましたが、このゲームの特徴は、キャラクターの名前が英語表記だったことです。

  • “Brass Ring”(真鍮の指輪)

  • “Leaping Lizzy”(跳ねるトカゲ – 敵の名前)

  • “Aspir”(アスピル – MPを吸収する魔法)

  • “Protect”(プロテス – 防御力を上げる魔法)

  • “Hauberk”(鎖帷子 – 鎧の一種)

特に装備品の名前が面白く、”Hauberk”(鎖帷子)や”Cuisses”(もも当て)といった、日本語でも馴染みのない単語を辞書で引きながら、「へぇ、こんな英単語があるのか」と楽しんでいました。

ゲーム内で出会った単語は、ビジュアルイメージと共に強烈に記憶に残りました。今でも”Hauberk”という単語を見ると、鎧を着たキャラクターが脳裏に浮かびます。

しかし、大きな問題がありました。それは、ゲームで覚えた単語は実用性が皆無だったことです。

“Hauberk”を実生活で使う機会は一生ありませんし、”Aspir”に至っては造語です。語彙は確かに増えましたが、TOEICや実用英語には全く役立ちませんでした(英検1級でごく稀に出会う程度です)。

 

文脈学習の落とし穴 – South Parkで覚えた「使えない」単語たち

ニュージーランドへのワーホリ前、私は『South Park』と『Family Guy』を教材にしていました。字幕を見ながら分からない単語をメモし、後で辞書で確認する。この方法で確かに語彙は増えました。

しかし、覚えていたのはこんな単語ばかりでした。

  • “douchebag”(嫌な奴)

  • “freaking”(めちゃくちゃ)

  • “screw up”(しくじる)

どれもスラングで、友達との会話では使えるかもしれませんが、TOEICには一切出てきません。つまり、文脈学習には「出会う単語の質」を選べないという問題があったのです。

 

企業研修で見た「文脈派」の失敗パターン

「単語帳は使わず、Part 7を読みまくって覚えます!」

こう宣言した生徒が何人もいましたが、半年後のスコアはほとんど伸びていませんでした。

理由は明白です。覚える絶対数が少なすぎるのです。

長文を1つ読んで知らない単語が5個あっても、復習しなければ翌週には忘れてしまいます。「先週のPart 7で出てきた”substantial”、覚えてる?」と聞いても、「え…何でしたっけ?」という反応が返ってくる。文脈で出会った単語はその場では理解できても、定着させるには反復が必要なのです。

 

『金のフレーズ』との出会い – 企業研修が決まった日

転機が訪れたのは2014年、企業のTOEIC研修講師を任された時でした。「講師なのに『金のフレーズ』を使ったことがないなんて…」と焦り、書店へ走りました。

最初の印象は「薄い」。たった1000語。「これで本当に効果があるのか?」と半信半疑でしたが、開いた瞬間に衝撃を受けました。

全ての単語が、TOEICに頻出する「使える」単語ばかりだったのです。

  • “revenue”(収益)

  • “promptly”(すぐに)

  • “substantial”(かなりの)

TOEICで何度も見る単語たち。この「TOEIC特化」という潔さが素晴らしかったのです。

 

私の『金のフレーズ』活用法 – 1日1周という狂気

多くの人は単語帳を「1日10単語ずつ」などのペースで進めますが、私は全く違うアプローチを取りました。

1日のうちに、単語帳を1周は見るようにする。

「1000語を1日で!?」と思われるでしょう。しかし、「覚える」のではなく、「出会う」ことが目的です。

朝の通勤電車で1周(30分)、昼休みに1周(10分)、帰宅後に1周(20分)。パラパラめくって、知らない単語に付箋を貼る。知っている単語は飛ばす。

最初は1周に2時間かかりましたが、2週間続けると60分で1周できるようになりました。繰り返すことで、自然と覚えていく。これが私の活用法でした。

 

洋書『1000 Words You Need to Know』との出会い

『金のフレーズ』だけでは物足りなくなってきた頃、Amazonで『1000 Words You Need to Know』というアメリカの高校生向けの単語帳を見つけました。

  • “ameliorate = to make better”(改善する)

  • “pragmatic = practical, realistic”(実用的な)

英英辞典のように英語で意味を理解することで、驚くほど記憶に残りました。「ameliorate」を「改善する」と覚えるより、「to make better」と覚える方が、使う場面がイメージしやすいのです。

ただし、この本はTOEIC対策としてはオーバーワークです。英検1級や通訳案内士試験には役立ちましたが、TOEICなら『金のフレーズ』で十分でした。

 

企業研修で見た「成功パターン」

企業研修で劇的にスコアを伸ばした生徒の方法はシンプルでした。単語帳を常に持ち歩き、同僚とクイズゲーム感覚で確認し合うのです。

「おい、”substantial”って何だっけ?」

「かなりの、だろ?」

「正解!じゃあ”promptly”は?」

彼らは工場の休憩時間や帰りの電車で、楽しそうに単語クイズをしていました。さらに、自分の生活に関連した例文を作って覚えていました。

  • “revenue”:「うちの会社のrevenue、今年は伸びてるよな」

  • “promptly”:「課長にpromptly返信しないと怒られるわ」

単語帳の例文ではなく、身近な文脈に置き換えることで、記憶に定着させていたのです。

 

各スコア帯での語彙力の壁

  • 755点の時(2013年1月)

    • 英検1級の語彙問題を見て、選択肢の単語が1つも分からないほど語彙力が不足していました。

  • 880点の時(2014年7月)

    • 『金のフレーズ』を1周し、Part 5の語彙問題は解けるようになりましたが、Part 7の長文ではまだ苦戦していました。

  • 910-925点の時(2014-2015年)

    • 『金のフレーズ』を3周して理解度は上がりましたが、新たな壁が現れました。「語法」の問題です。”provide A with B”か”provide A to B”か、といった前置詞の使い分けに悩みました。

  • 970点の時(2016年5月)

    • 公式問題集を何度も解き直すことで、語法のパターンを体に染み込ませ、壁を突破しました。

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結論: 単語帳は「必要」。でも、それだけでは不十分

長年の試行錯誤の結果、私が出した結論はこうです。

 

単語帳と文脈学習、両方必要。

  • 単語帳のメリット

    • TOEIC頻出語を効率よく覚えられる

    • 復習がしやすい(付箋や正の字で管理)

    • 短時間で大量の単語に出会える

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  • 文脈学習のメリット

    • 単語の使い方が理解できる

    • 長文読解力が同時に鍛えられる

    • 実際の使用場面がイメージできる

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私のおすすめ学習法:

  • 朝(30分): 『金のフレーズ』を1周して「種をまく」

  • 昼(15分): BBCラジオなどで文脈に触れ、分からない単語をメモ

  • 夜(1時間): 公式問題集のPart 7で文脈学習

  • 週末(30分): その週に出会った単語を復習

単語帳で「種をまき」、文脈学習で「水をやる」。この両輪があって初めて、語彙力は伸びるのです。

 

ファイナルファンタジー11で学んだ教訓

大学生の頃、ゲームで覚えた単語はTOEICには役立ちませんでした。しかし、あの時学んだことが一つあります。

「興味があれば、自然と覚えられる」

『金のフレーズ』も同僚とクイズゲームにすれば楽しいですし、BBCラジオも興味のある番組なら飽きません。勉強を「苦行」にするのではなく、「興味を持てるもの」にする。これが、継続の秘訣だったのかもしれません。

 

振り返って思うこと

単語学習に「正解」はありません。単語帳だけで満点を取る人もいれば、文脈学習だけで伸びる人もいます。

大切なのは、自分に合った方法を見つけ、継続することです。私の場合は、「単語帳1日1周」という方法が合っていました。あなたには、あなたの方法があるはずです。

 

【次回予告】

次回は、「TOEIC 970点突破(2016年5月)- 何が変わったか」をお届けします。

リーディング475点への飛躍。文法問題の瞬間判断力。そして、「最後の壁」を破るために私が実践した具体的な方法をお伝えします。

 

【今回のポイント】

  • 「文脈学習だけでは、語彙の『量』が足りない」

  • 「単語帳だけでは、語彙の『使い方』が分からない」

  • 「金のフレーズは1日1周で『出会う』頻度を上げる」

  • 「自分の生活に関連した例文を作ると記憶に定着する」

  • 「単語帳と文脈学習、両方必要である」

【プロフィール】

  • 亀井勇樹(42歳)

  • 栃木県宇都宮市「アカデミック・ロード」英語塾講師

  • 保有資格:TOEIC L&R 990点、英検1級、通訳案内士(英語)