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TOEIC満点への道 Vol.15


TOEIC 910-925点の壁(2014-2015年)- 最後の50点がなぜ難しいか

2015年5月、スコアシートを見ながら、私は深くため息をつきました。

Total: 920点(L: 495 / R: 425)

リスニングは再び満点。しかし、リーディングは相変わらず400点台前半。この「アンバランス」な状態が、もう1年以上続いていました。950点という目標まで、わずか30点。この「最後の壁」を前に、私は苦悩していました。

前回の記事では、リーディングの壁にぶつかった苦しみをお伝えしました。今回は、その停滞期を抜け出すために私が実践した具体的な対策についてお話しします。

 

苦手分野の「見える化」- 正の字作戦

停滞期を抜け出す第一歩は、「自分が何を間違えているのか」を徹底的に分析することでした。

私が実行したのは、非常にシンプルな方法です。それは、間違えた問題の解答欄に「正」の字を書いていくというものでした。

最初は「こんな原始的な方法で効果があるのか」と半信半疑でした。しかし、2週間ほど続けてみると、驚くべきパターンが見えてきました。

「また分詞の問題か…」

正の字が5つ、6つと増えていく問題には、明らかな傾向がありました。私の場合、それは分詞の問題でした。

 

分詞の難関:-ingと-edの選択

TOEICのPart 5では、分詞の選択を問う問題が頻出します。

The report _____ by the marketing team was very detailed.

(A) preparing (B) prepared (C) prepare (D) to prepare

答えは(B)の「prepared」。「マーケティングチームによって準備されたレポート」という受動の意味だからです。

しかし、当時の私はこれが本当に苦手でした。「-ingと-edの違いは何なのか?」

『Grammar in Use』で英語を学び直した私は、「現在分詞」「過去分詞」という日本語の文法用語がうまく頭に入りませんでした。英語では「present participle」「past participle」と習ったものの、それが日本語のTOEIC参考書の解説とうまく結びつかない。結果、本番では「なんとなく」で選んでしまい、正答率は5割程度というコイントスと変わらない状況でした。

 

「出る1000問」との出会い:量こそが力

転機は、『TOEIC L&Rテスト 文法問題 でる1000問』との出会いでした。

この本は、特急シリーズの3倍はあろうかという分厚いボリュームでした。最初は「こんなの終わるわけがない」と思いましたが、この「量」こそが、当時の私には必要だったのです。

1000問を解いていくうちに、同じパターンの問題が何度も出てきます。最初は間違える。解説を読む。また同じパターンが出る。また間違える。解説を読む。3回目、4回目…

そして、ある時ふと気づくのです。「あ、この形、さっきも見た」

頭で理解する前に、体が覚える。これが、1000問という「量」の力でした。

 

分詞問題の攻略法:「主語との関係」を見極める

『出る1000問』を3周した頃、ようやく分詞問題の「コツ」が分かってきました。

ポイントは、空欄の前にある名詞(修飾される側)との関係を見ることです。

「レポートが準備するのか、準備されるのか?」

レポートは人間ではないので、自分で準備することはできません。したがって「準備される」= 受動 = 過去分詞(-ed)を選ぶ。

この「主語との関係を考える」という視点を持つだけで、分詞問題の正答率は格段に上がりました。

 

高価な文法書への投資:『現代英文法講義』

『出る1000問』で「パターン」は覚えました。しかし、「なぜそうなるのか」という理屈がまだ腹落ちしていませんでした。

そこで手を出したのが、『現代英文法講義』という専門書です。価格は約7,000円。TOEIC参考書としては破格の高さで、購入する時は不安もありました。

しかし、この本は私の文法理解を根底から変えてくれました。

  • 「なぜ現在分詞は能動的な意味を持つのか」

  • 「なぜ過去分詞は受動的な意味を持つのか」

こうした「なぜ」に対する答えが、学術的かつ明快に書かれていたのです。もちろん、すべてを読破したわけではありません。自分の苦手な分野(分詞、関係詞、仮定法など)だけを辞書的に引いて読む。それだけでも、十分な効果がありました。

 

英検1級との両立:疲れた日のTOEIC活用

この時期、私はTOEICだけでなく、英検1級の勉強も並行していました。

「どちらを優先すべきか?」

これは常に悩みの種でしたが、私が採用したルールは非常にシンプルでした。

  • 疲れている日はTOEIC

  • 余裕がある日は英検

理由は、脳への負荷の違いです。TOEICは「パターン認識」の要素が強い。『出る1000問』をひたすら解くような作業は、頭が疲れていてもできます。むしろ、半分ぼーっとしながら解くくらいが、「体で覚える」には良かったのかもしれません。

一方、英検1級は「思考力」が求められます。特にライティングや長文読解は集中力がないと太刀打ちできません。だから、頭がクリアな日に取り組む。この使い分けで、両方の勉強を継続することができました。

 

英検1級がTOEICに与えた「逆効果」

ただし、英検1級の勉強がTOEICに悪影響を与えたこともありました。

それは、Part 7の解き方です。英検1級の長文問題は、じっくり読んで内容を理解することが正攻法でした。しかし、この習慣がTOEICに持ち込まれると、時間が全く足りなくなるのです。

ある日のTOEIC模試で、私は英検モードのまま本文を全部読んでから設問に取り掛かりました。結果、Part 7の後半20問が時間切れ。

英検とTOEICは、同じ「英語の試験」でも、求められるスキルが全く違う。この当たり前の事実を、身をもって学びました。

 

それでも950点に届かない現実

『出る1000問』を3周し、『現代英文法講義』で理屈を理解。分詞問題の正答率も上がった。

それでも、2015年5月のスコアは920点。目標の950点にはまだ30点足りませんでした。

正直、心が折れそうになりました。「これだけやっても、まだ届かないのか…」

しかし、この時期の努力は、決して無駄ではありませんでした。文法の基礎が固まったことで、2016年以降の飛躍的な伸びにつながったのです。当時の私には見えていませんでしたが、950点への扉は、確実に近づいていました。

 

振り返って思うこと:最後の50点が難しい理由

今振り返ると、900点から950点への「最後の50点」が難しい理由が分かります。

  • 理由①:苦手分野を「なんとなく」では乗り越えられない

    • 800点台までは、得意分野でカバーできます。しかし、900点を超えると、苦手分野の克服が必須になります。「なんとなく」ではなく、「確実に」正解できるレベルまで引き上げる必要があります。

  • 理由②:「量」と「質」の両方が必要

    • 『出る1000問』のような「量」をこなす勉強と、『現代英文法講義』のような「質」を深める勉強。どちらか一方では足りません。両輪を回して初めて、壁を突破できるのです。

  • 理由③:他の試験との相乗効果と副作用

    • 英検1級との並行学習は、語彙力の面ではプラスでした。しかし、解答スタイルの違いがTOEICに悪影響を与えることもあるため、試験ごとの「解き方の切り替え」が重要です。

    •  

【次回予告】

次回は、「使用教材徹底解説① – 公式問題集の200%活用法」をお届けします。

TOEIC対策の王道である公式問題集。私はこれを「3回解き直し」で徹底的にやり込みました。間違いノートの作り方、付箋の活用法など、990点満点を取るまでに編み出した「公式問題集の200%活用法」を包み隠さずお伝えします。

 

【今回のポイント】

  • 苦手分野は「正の字」で見える化し、集中的に対策する

  • 分詞問題は「主語との関係」という視点で攻略する

  • 「出る1000問」でパターンを体に覚えさせる

  • 高価な専門書への投資も「なぜ」を理解するために価値がある

  • 英検とTOEICは「解き方の切り替え」が重要

  • 最後の50点は「量」と「質」の両輪で突破を目指す

【プロフィール】

  • 亀井勇樹(42歳)

  • 栃木県宇都宮市「アカデミック・ロード」英語塾講師

  • 保有資格:TOEIC L&R 990点、英検1級、通訳案内士(英語)