TOEIC満点への道 Vol.14
リーディングの壁 – 400点台前半での停滞期
2014年7月某日、自宅のポストに届いたTOEICのスコアシート。
封を開ける前、私は「前回リスニング満点だったし、今回は950点くらいいってるかも」と期待していました。
しかし、スコアシートを見た瞬間、その期待は音を立てて崩れ落ちました。
Total: 915点(L: 480 / R: 435)
リスニングは前回より下がり、リーディングはたった5点しか上がっていませんでした。この「915点」という数字が、私の長く苦しい「リーディングの壁」との戦いの始まりでした。
リスニング満点の喜びと、リーディングの現実
2014年5月、リスニング満点(495点)を達成した時の喜びは今でも忘れられません。
「これでトータル950点も見えてきた!」と楽観視していました。リーディングも前回の325点から430点へと100点以上アップしていたため、「この調子でいけば余裕だろう」と思っていたのです。
しかし、現実は甘くありませんでした。
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2014年7月:915点(L: 480 / R: 435)
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2015年3月:910点(L: 485 / R: 425)
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2015年5月:920点(L: 495 / R: 425)
約1年間、リーディングは400点台前半で完全に停滞しました。リスニングが満点近くを維持する一方で、リーディングは全く伸びない。この「アンバランス」が、私を苦しめました。
Part 5(文法)の壁:日本語の文法用語が理解できない
停滞の最大の原因は、Part 5の文法問題でした。
当時の私の正答率は約60%(30問中18問正解)。900点を超えるには、Part 5で最低でも25問以上は正解する必要があり、これでは話になりません。
しかし、ここで大きな問題がありました。それは、日本語の文法用語が理解できないということでした。
「文法特急」など、日本のTOEIC参考書を買ってみたものの、解説に書かれている用語が理解できないのです。
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「関係代名詞の制限用法と非制限用法の違い」→ 不明
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「現在完了進行形と現在完了形の使い分け」→ 不明
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「仮定法過去完了の帰結節」→ 何のことか分からない
『Grammar in Use』で英語を使って文法を学び直してきた私にとって、日本語の文法用語はまるで別の言語のように感じられました。いちいち英語に変換しないと理解できない「変換作業」が、本番での時間ロスにつながっていました。
時間配分の失敗:190番以降に到達できない絶望
もう一つの深刻な問題が、時間配分でした。
2014年時点の私の解答ペース:
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Part 5・6(文法・穴埋め):20分
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Part 7(読解):55分
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見直し:なし
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到達問題番号:190番前後
つまり、最後の10問にすら到達できない状態でした。181番から始まるダブルパッセージ(当時はトリプルパッセージはまだ存在しなかった)で時間切れとなり、残りの問題は適当にマークして終了。
試験終了のアナウンスが流れるたびに、いつも「また最後まで行けなかった…」と深く落ち込みました。
「1問にこだわる」という罠
なぜ時間が足りなかったのか。自己分析した結果、原因は明らかでした。
それは、「分からない問題に5分以上かけている」という点です。
例えば、Part 5の1問に5分悩む。結局答えが分からず、適当にマーク。この「悩む時間」が積み重なり、Part 7の後半に到達できないのです。
しかも、5分悩んだ問題の正答率は、適当にマークした問題と変わらないという悲しい現実がありました。つまり、時間をかければかけるほど、正答率は上がらず、時間だけが失われていくという、完全に負のスパイラルでした。
ある試験で、Part 5の1問に悩みすぎて、Part 7の最後20問を全てマークできなかったことがあります。試験後、その1問の答えを確認したところ、間違っていました。自己嫌悪に陥ったことを今でも覚えています。
Part 7の長文読解:「全部読む」vs「先に問題を読む」論争
Part 7の時間配分でも、私は大きな判断ミスをしていました。
「本文を全部読んでから問題を解く」
この方法は、内容を完全に理解できる利点はありますが、時間がかかりすぎます。特にダブルパッセージでは、2つの文章を全て読むため、1セットで10分以上かかってしまうこともありました。
しかし、「先に問題を読んでから本文を読む」方法に切り替えようとしても、うまくいきませんでした。問題を読んでも、結局本文を全部読んでしまう。「問題の答えがどこにあるか分からないから、全部読まないと不安」という心理が働いていたのです。
結果、「先読み」にかかる時間と「全文読み」の時間の両方が発生し、さらに時間が足りなくなるという、完全に悪循環でした。
スコアシートを見る度の絶望
試験の度に、「今回こそは!」と意気込んで臨みます。
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Part 5は適当にマークせず、分からない問題は飛ばす
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Part 7は時間配分を意識して、1問3分以内で解く
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最後まで到達することを最優先にする
こうした戦略を立てて試験に臨むのですが、本番になると全てが崩れます。緊張で頭が真っ白になり、Part 5で悩み、Part 7で時間が足りなくなり、結局190番前後で時間切れ。
そして2週間後、自宅に届くスコアシートの「R: 425」。前回と変わらない数字を見る度に、心が折れそうになりました。「何をやっているんだ、自分は…」
特に辛かったのは、企業研修の生徒たちに「頑張ってますか?」と聞かれた時です。「はい、頑張ってます!」と答えながら、心の中では「でも全然伸びてないんだよね…」と思っていました。
講師としてのプレッシャー:「900点の講師」の限界
企業研修の生徒の中には、すでに800点、850点を取っている人もいました。
そんな生徒に、「先生、950点目指すにはどうすればいいですか?」と聞かれた時、正直に答えられませんでした。自分が950点取れていないのに、どうアドバイスすればいいのか、と悩んでいたのです。
講師として、自分のスコアが生徒の目標に到達していないことが、大きなプレッシャーになっていました。
さらに辛かったのは、同僚の講師が「先月、970点取りました!」と報告してきた時です。「おお、すごいね!」と祝福しながら、心の中では悔しさで一杯でした。
それでも続けた理由:「諦めたらそこで試合終了」
1年間、ほとんどスコアが変わらない。この状況で、何度も「もうTOEICはいいかな…」と思いました。
しかし、諦めなかったのには理由がありました。
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理由①:リスニング満点という「証明」
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リスニングで満点が取れたという事実は、「自分にも満点が取れる可能性がある」という希望を与えてくれました。リスニングで495点が取れたなら、リーディングでも同じことができるはずだと信じました。
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理由②:生徒の成長を見ていた
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企業研修で、半年間で200点アップした生徒がいました。彼は毎日コツコツと勉強を続け、見事に目標を達成しました。その姿を見て、「自分も諦めるわけにはいかない」と思いました。講師が諦めたら、生徒に示しがつきません。
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理由③:「28歳無職から這い上がった」プライド
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28歳で映画館のアルバイトをしていた自分が、英語講師として働けるようになった。この事実が、私を支えてくれました。「あの時諦めなかったから、今がある。だから今回も諦めない」と自分に言い聞かせました。
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振り返って思うこと
今振り返ると、この停滞期は必要な期間だったと思います。
リーディングの壁にぶつからなければ、「時間配分の重要性」「捨てる勇気」「完璧主義の危険性」を学ぶことはできませんでした。停滞期があったからこそ、その後のブレイクスルーがあったと信じています。
そして何より、この経験は講師としての私を成長させてくれました。「伸び悩んでいる生徒の気持ちが痛いほど分かる」この共感力こそが、講師として最も大切な資質だと、今では確信しています。
【次回予告】
次回は、「TOEIC 910-925点の壁(2014-2015年)」をお届けします。
停滞期を抜け出すために、私が実践した具体的な対策とは?Part 5の文法問題を8割正解できるようになった秘訣、Part 7で最後まで解き切るための時間配分術を、包み隠さずお伝えします。
【今回のポイント】
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リスニング満点でも、リーディングは別物
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Part 5(文法)の壁は、日本語の文法用語の理解不足
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「1問にこだわる」罠が時間配分を狂わせる
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190番以降に到達できない焦りとの戦い
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スコアが変わらない絶望を乗り越える方法
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停滞期こそ、成長のための「必要な期間」
【プロフィール】
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亀井勇樹(42歳)
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栃木県宇都宮市「アカデミック・ロード」講師
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保有資格:TOEIC L&R 990点、英検1級、通訳案内士(英語)

