TOEIC満点への道 Vol. 10
【講師1年目の試練】「英語ができる」と「教えられる」の壁 – 29歳新米講師の奮闘記
はじめに
前回の記事でお話しした通り、2013年4月、私は29歳にして初めて正社員として働き始めました。英検準1級とTOEIC 755点を武器に、英会話スクールの講師になったのです。
初めてスーツを着て出勤する朝。鏡に映る自分を見ながら、「本来なら、これは22歳の時に経験しているはずだった」と思いました。遅すぎるスタートでしたが、私は新しい人生の扉を開きました。
研修初日の「洗礼」:「歌って踊れる英語講師」への道
英会話スクール講師の研修は、想像以上に過酷でした。
特に初日、子ども向けレッスンの研修で待っていたのは、「歌と踊り」の特訓でした。
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ABCソング
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Head, Shoulders, Knees and Toes
 
これらの英語の歌を、振り付けつきで、笑顔で、元気よく歌う。これが子ども向けレッスンの基本だと言うのです。
全てが苦手だった
恥ずかしながら、私は歌も踊りも大の苦手です。
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人前で歌うこと:恥ずかしい。
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振り付けを覚えること:不器用で覚えられない。
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笑顔で踊ること:そもそも笑顔が引きつる。
 
「亀井さん、もう一回!もっと大きく、元気よく!」
何度もやり直しをくらい、周囲の研修生が上手にこなしていく中、自分だけが取り残されていく感覚。「早く終われ…」と心の底から思いました。
「英語ができる」と「英語を教えられる」の現実
研修が進むにつれ、私はある重要な事実に気づきました。
「英語ができること」と「英語を教えられること」は、全く異なるスキルだ。
TOEIC 755点を取得した自分の英語力には自信がありました。しかし、「教える」となると話は別でした。
レッスン研修では、文法の説明や単語の使い方を「日本語でわかりやすく説明する」ことが求められます。しかし、これが驚くほど難しい。
例えば、現在完了形(have + 過去分詞)について。
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自分で使うことはできる。
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意味も理解している。
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でも、「なぜこの形になるのか」を論理的に説明できない。
 
テキストの言葉をただ読み上げるのではなく、自分の言葉で、初心者にもわかるように説明する。これが、当時の私にはできませんでした。
初めての生徒:小学1年生の前で立ちすくんだ日
研修を終え、いよいよ実際のレッスンが始まりました。私の最初の生徒は、英語を初めて習う小学1年生でした。
教室の前で待機しながら、私の手は震えていました。チャイムが鳴り、小さな生徒が教室に入ってきました。
「Hello! My name is Yuki! Nice to meet you!」
笑顔で挨拶はできましたが、その後が続かないのです。
最初のレッスンで失敗したこと
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何を言ったら良いかわからない沈黙が怖くて、とにかく喋り続けてしまう。
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生徒が理解しているか確認せず、説明しすぎる。
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生徒の顔色ばかり伺い、自信のなさが態度に出てしまう。
 
レッスン終了後、私はぐったりと疲れ果てていました。
それでも見つけた小さな光
でも、レッスンの最後、一つだけ救いがありました。
“What’s this?” と絵カードを見せた時、生徒が力強く “It’s a dog!” と答えてくれたのです。
「わかった!」という表情。その瞬間の生徒の笑顔が、私の心に小さな灯をともしました。
「ああ、教えるって、こういうことなんだ。」
完璧じゃなくても、生徒に何かが伝わる瞬間がある。その瞬間のために、もう少し頑張ってみようと思えました。
最大の試練:企業出張TOEIC講座
講師として働き始めて1年ほど経った2014年、突然の辞令が下りました。
「亀井さん、企業向けの出張TOEIC講座をお願いしたいんだけど。」
場所は工業団地にある大手企業の工場。受講者は全体で30〜40名。不安でした。
「29歳の男が、工場の現場で働く人たちに英語を教えに来る。」
受け入れてもらえるだろうか?ばかにされないだろうか?
受講者とのギャップ:初級者クラスの現実
初級者クラス(目標470点)に初めて行った日、私は愕然としました。
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be動詞と一般動詞の区別がつかない。
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三人称単数現在の-sが理解できない。
 
教材通りに進めても、誰もついてこれない。受講者の実際のレベルは、会社が想定していたよりもはるかに低かったのです。
受講者とのギャップ:上級者クラスの別の壁
一方、上級者クラス(目標650点)では別の難しさがありました。
受講者の多くは昇進のために650点が必要な30代の社員。彼らは文法知識は豊富ですが、リスニングが壊滅的でした。
さらに、彼らは和訳や文法構造の「正確な説明」にこだわる傾向があり、TOEICは時間との勝負であることを理解してもらうのに苦労しました。
現場で受け入れられるための努力
工場という環境で「先生」として受け入れてもらうため、私は意識を変えました。
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明るく、大きな声で話す: 工場の現場の人たちに負けない声量で「元気な先生」というキャラクターを作る。
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体育会系のノリで振る舞う: 多少の冗談を交え、「英語の先生」というよりは「ちょっと英語ができる兄ちゃん」という距離感。
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生徒の立場に立つ: 「英語が苦手で当然」という前提。小さな進歩を褒める。
 
最初はお互いにぎこちなかった空気も、2〜3回目には少しずつほぐれてきました。
教えることで露呈した、自分の英語力の限界
企業出張講座を担当して、私は痛感しました。
自分の英語力は、まだまだ「指導できるレベル」には達していない。
日本語での解説が弱い
ニュージーランドで「英語を英語で」学んできた私にとって、「日本語で文法を論理的に説明する」ことは想像以上に難しかったのです。
例えば、受講者から「先生、これは仮定法過去完了ですよね?」といった質問が飛んできます。その時、私は自分の知識の穴に気づくのです。
突っ込んだ質問に答えられない
さらに厳しかったのは、「先生、この表現、ネイティブならどう言いますか?」という質問。TOEIC 755点、英検準1級でも、「ネイティブの自然な言い回し」まではカバーできていませんでした。
その時、私は正直に言いました。「すみません、職場のネイティブスピーカーに確認してきます。」恥ずかしかったですが、嘘をつくよりはマシだと判断しました。
講師1年目で学んだ、最も大切なこと
この1年間で、私は大きな教訓を学びました。
「知っている」ことと「説明できる」ことは、全く異なるスキルだ。
自分で使える表現でも、その使い分けを論理的に説明できない。質問されて初めて、自分の理解の浅さに気づく。
教えることは、最高の学習法
生徒からの質問は、私の弱点を容赦なく突いてきます。この質問に答えるために、私は毎日必死で勉強しました。
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帰宅後、質問されたことを徹底的に調べる。
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文法書を読み直し、ネイティブ講師に質問しまくる。
 
教える準備をすることで、自分の英語力が鍛えられていく。これが、講師という仕事の最大の恩恵でした。
本格的な学習計画の必要性
企業出張講座を担当し、自分の英語力の限界を痛感した私は、ここで決意しました。
「TOEIC 900点を目指そう。いや、できるなら満点を取ろう。」
中途半端な英語力では、生徒に申し訳ない。本気で英語を教えるなら、本気で英語力を高めないといけない。
こうして、私のTOEIC満点への挑戦が、本格的に始まったのです。
【振り返って思うこと】
講師1年目で学んだ最も大切な教訓は、「教えることは、教わること」です。生徒の成長が、自分の成長でもある。この仕事を選んで、本当に良かったと思っています。
【次回予告】
次回は、「企業出張TOEIC講座での経験 – 880点への道」をお届けします。
TOEIC講座の講師として働きながら、自分自身もTOEICの勉強を本格化させた私。どのような教材を使い、どのような学習法で880点、そして925点へと到達したのか。具体的な勉強法と使用教材を詳しくお伝えします。
              
